TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】ヤマビルとの戦い

執筆:片岡メリヤス

2024年9月12日

 先日、妙義山へTと日帰り登山に行った。 久しぶりの本格的な岩稜帯にドキドキ、真夏の低山だし熱中症に要注意。そんな不安を吹き飛ばし、私たちにあっさり下山を決意させたのがヤマビルだった。

「4月〜11月、雨の翌日の妙義山はヤマビルに注意!」と行く前に調べたらそう書いてあった。 山でヒルを気にしたことはなかったけど、対策して行った方が良さそうだから虫除けスプレーと塩を持参。出発前は虫除けを登山靴に重点的に吹き付け、首にはてぬぐい、長袖Tシャツはズボンの中、ズボンは靴下の中、とにかく素肌への侵入経路を断つ。

 妙義神社の登山道入口から登り始めて30分、Tが「ヤマビル! いた!」と言ったのを号令のように、パッと見ただけでTの登山靴に3匹ウヨウヨ。尺取り虫の動きで登山靴によじ登り、口がタコの吸盤みたいに靴や靴下にくっついて振り払おうとしても全く離れない。登山靴の中にも入ってくる。ああ〜……。

 とにかく振り落とせないから葉っぱで摘んで遠くへ投げたり、虫除けスプレーをかけたり。地面を見ると“ここにも、そこにもいる”という状況。もはや登山どころじゃない……と2人して意欲をなくし下山。

 吸盤で吸い付いて顎が3つに開いてギザギザの小さな歯で食いついて吸血するらしいけど、もはやそれって宇宙人だよ。そしてこんなにウヨウヨいるものなの? 想像と違う。いるとは思っていたけどたまに靴に付いてくるくらいかと思ってた。

 下山したけどせっかく来たから周辺の安全な道路を歩きまわり、昼過ぎに他の登山道に入ってみた。もしかしたらヒルが活発になるのは朝だけなのではと思ったからだ。 最初の10分は地面も乾燥していて出てこなそう。少し下ると沢がありジメジメしてきて 「こういう所にいそうだな〜」と思って目を凝らすと T の靴下にヒルが!

「ヒルくっついてる!」と言って葉っぱで掴んで取ろうとしたけど、大きくてなかなか離れず、どんどん動いて靴の中に入って行こうとするから慌てて掴んで取ったら私の人差し指にくっ付いた。

「ぎえ〜! ついに素肌に吸いつかれたー!!」

 と思って引っ張ろうとしたらTに「無理矢理引っ張っちゃだめ!」と言われ、「そうだった〜」と思って、ちょっと冷静になった私は吸い付いているヒルの口を見つめ「ちゅぱってしてるな、よく見るとかわいいかも……」と思った。

 Tが虫除けスプレーを出して吹き付けたら、ポロっと取れて指は無傷だった。すぐに吸血するわけではなさそう。

 その後ヒルだらけの登山道を20分歩き、葉っぱで取るのも上達し、手に負えない時は虫除けスプレーや塩で撃退しつつ、イタチごっこ状態。歩く振動に反応するのかセンサーのように落ち葉の下からひょっこり出てくる姿も見た。

 駐車場に戻っても、どこかにくっ付いていそう……という考えに取り憑かれて徹底的に探す。チェックしまくりもう大丈夫かな〜と思った時に「いるっ!!!!」と言われ、指さされた所が肩だった。私たちのチェックを逃れて肩まで登ってきていたヒルを見て私は「もお〜、嫌だよー!」と大声で言った。もうちょっとで襟ぐりから素肌へ侵入されるところだった。こわ〜。

 温泉寄って真っ裸で鏡の前に立ち、2周回って全身チェックしてから入浴した。ようやく安心できた。

プロフィール

片岡メリヤス

2011年から作家活動を開始。飾るだけではなく遊べて愛のあるぬいぐるみを制作する。また自ら脚本出演も行うオリジナルの人形劇を各地で上演しているほか、漫画、ドローイング、木工、粘土など様々な作品を手掛ける。近年は異ジャンルのアーティストとのコラボレーションや広告への作品提供など幅広く活動中。

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