TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】Kanoko

執筆:遠藤文香

2026年7月13日

1年前、岡本かの子という女に出会ってからというもの、私は彼女に突き動かされるようにして制作し、あれやこれやと向き合って、身も心もボロボロになり、そしてなんだか充たされていた。

彼女の狂気に魅了され、時にぶつかり、私はかの子の傀儡なのではとすら考え始めてしまうほど、彼女の存在は私の内側で膨張して、むくむくと侵食するように大きくなった。私たちは長い時を超え、この一瞬のあいだだけ見えない糸で繋がっていたのかもしれない。

岡本かの子は戦前を生きた歌人であり、仏教研究家でもあり、小説家だった。そして何より、「芸術は爆発だ」でお馴染みの日本を代表する芸術家、岡本太郎の母である。

かの子はおかっぱで、ふっくらとして丸っこく、顔は真っ白の厚化粧、決して美人とは言えない出立をしていた。この1年間、それまでコロコロと変えていたスマホのホーム画面はずっとかの子のままだったし、かの子のことを考えたり話たりするだけで、涙腺が緩んで泣いてしまうことばかりだった。

見えないけど、彼女がずっと近くにいて、私を見張っているか、もしくは取り憑いているのではないかとすら思いながら過ごし、自分の身体から涙がでているのに、ああまたかの子が泣いているわ、といった具合に、私の半分の性格や感情が彼女になってしまったような、そんな感じだった。

もはや不思議を通り越してなんだかずっと恐ろしかった。

(つづく)

プロフィール

遠藤文香

えんどう・あやか|1994年生まれ。2018年、東京藝術大学美術学部デザイン科卒業、2021年に同大学院修了。修了後は東京を拠点に写真家として活動し、現在はロンドン在住。主に動物や自然を対象とし、それらと人間とのあいだに古くから培われてきた感覚に関心を寄せながら制作を行っている。主な個展に「when I see you, you are luminous」(Tokyo International Gallery、東京、2023)、「Kanoko」(Poetic Scape、東京、2026)などがある。主な出版に「Pneuma」(roshinbooks)など。

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【#1】Kanoko

Kanoko

薄い膜が境界となって内と外をつなぐ — その境界が揺れ、ふたりの気配が立ち上がる

小説家・岡本かの子
写真家・遠藤文香

小説が写真の説明にならず、写真が小説の挿絵にも資料にもならない。
それでも、読むことと見ることを行き来するなかで、小説と写真が〈いま〉として立ち上がる。

本書は、日本の小説と写真を一冊の本の中で拮抗させてきたシリーズの第6作として、岡本かの子の小説『鮨』(1939年)に、遠藤文香の写真を加え、編集・造本した“書物”です。

小説『鮨』には、消えない気配があります。その気配は、岡本かの子の生へも通じているように感じられます。
歌人として出発し、晩年に小説へと向かった岡本かの子の強度、そして家族や時代の圧を引き受けた一人の作家の輪郭が、この小説の背後で静かに息づいています。

その気配を想起させたのが、新進気鋭の写真家・遠藤文香の写真でした。
遠藤文香の写真は、境界を固定しません。
自然と人為、触れることと介入すること、その境界を揺らしながら、気配を残していきます。

岡本かの子の言葉が持つ消えない気配と、遠藤文香の写真が残す気配の余韻が、ただ並走しながら響き合い、ときには読んだはずの小説が違って見え、見たはずの写真の印象も変わっていきます。

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言葉:岡本かの子
写真:遠藤文香
出版:町口覚
デザイン:清水紗良(MATCH and Company Co., Ltd.)

判型:縦210mm/横148mm
頁数:240頁
写真点数:98点
仕様:並製本、スリーブケース入り

発行:bookshop M Co., Ltd.

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