TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】ここ屋久島だよね?

執筆:吉住

2026年6月23日

山の天気は変わりやすいと言うけれど、まさかここまでとは。
先ほどまでのカラッと晴れ渡る空気がウソのように、辺り一面暗雲が立ちこめている。参加者の表情にも陰りが見える。
あ。また誰かの雷が落ちた。
だが、台風の目となっているガイドの山田だけは、そのことに気づいていない。

まさかだった。
日々の疲れを癒すために参加した縄文杉トレッキングで、担当してくれたガイドが腐すイジりをするタイプの人だった。しかも、今ではなかなかバラエティでもお目にかかれないような代物で。主に体型を揶揄してくるのだが、厄介なのは、それをサービス精神でやっているところ。こちらが楽しんでいると信じて疑わないところだ。
もしかして、タイムスリップでもしているのか?
でないと、あまりにも今の時代を知らなさ過ぎる。この人だけ何十年と時が止まっていないとおかしい。

いい思い出になるはずの屋久島旅が思ってもみない方向に転がりはじめた。
参加者は肩を落とし、ただただ足元のトロッコ道を見つめて歩き続けている。

“空気が悪い”

まさか世界自然遺産でこんな感想を抱くことになるとは。ここ屋久島だよね?
すると、ここでサブリーダー・斉藤が動く。山田を質問攻めにしはじめたのだ。とにかくこちらに矛先を向けないよう、登山経験者なら知っているであろう当たり障りのない質問を山田にぶつけ、時間を稼いでくれる。

ありがとう!斉藤!さすが頼れるサブリーダー!
あなたならやってくれると思ってた!
いや。そもそもあなたはサブなんて器じゃない。
斉藤!わたしね、あなたをリーダーに推薦する!!!

斉藤のリーダー昇格がわたしの中で確定したタイミングで、休憩を取ることになった。わたしたちは示し合わせたかのように、山田から少し距離を置いて腰掛ける。山田は顔見知りのガイドがいたようで談笑をはじめた。知らぬ間に張っていた緊張の糸がゆっくりほどけていくのを感じる。しばしの安息。ゆっくり深く息を吸う。

地球の歴史からするとどれくらいなんだろう?

モーニング娘。の “ザ⭐︎ピ〜ス!”の歌詞がふと頭をよぎる。見上げると、そこには樹齢1000年を超える屋久杉がそびえ立っていた。
そうだよなぁ、と思う。地球の歴史からすると、今のこの状況はあまりにも瑣末である。そんなことで心を満たされるのはどうだろう。口惜しい気がしてくる。
圧倒的な自然を見せつけられて、心が浄化せずにはいられない。澄んでいく。

屋久島に来てよかったと思った。

日々に追われ、心をすり減らすような出来事でさえ、本当にちっぽけなことなんだ。
いつの間にか手放していた感覚を取り戻した気がした。
これが、屋久島に来た意味なのかもしれない。
まさかではあるが、わたしはこの瞬間、屋久島旅のピークを迎えた。お目当ての縄文杉をみる前に。

出発から3時間。
ここまではひたすら平坦なトロッコ道を歩いてきたが、ここからは傾斜が急で登山の要素が出てくる。今までほどの会話も出来なくなるだろうから、山田の悪癖も鳴りを潜めてくれたらいいのだが。
休憩が終わり、出発の段になった時、それまで山田の後ろが定位置となっていたマミが静かに口を開いた。

“『お先にどうぞ』”

ここでとうとうマミが仕掛けてきた。
「私ばっかりガイドさんを独り占めするなんて申し訳ないです。だから、“ガイドさんの後ろ”をどうぞ」といった、気遣いのニュアンスを存分に含みながら、実のところ、「姐さんら、そろそろ順番変わってもらわれへんやろか? わてばっかり貧乏くじ引かされて、納得いきまへんのや。ここはひとつ、痛み分けでどないでしょ?」と、黒々としたチャカをイジりながら、エセ関西弁を使うヤクザ映画さながらの駆け引きを匂わせてきた。
この一言をきっかけに、山田のすぐ後ろのポジションが、説明を聞きやすい【VIP席】という位置づけから、 【生贄】ポジションへと一変する。

⇦山田(ガイド)/【VIP席】/ファースト/ビジネス/エコノミー

⇦ 山田(ガイド)/【生贄】/モブ/モブ/モブ

ここで、熾烈なポジション争いの幕が開くかと思いきや、そんなことは決してなかった。この時、わたしたちの中にはすでに“絆”が生まれていたように思う。
「うちら4人で絶対いい旅にしようね!約束だかんね!」
口に出さずとも、思いはひとつだった。なんとしてでも、いい思い出にしてやる。それは執念にも近かったと思う。
「うちらが守るから、マミは下がってな」と、マミを最後尾に置き、誰が言い出すでもなく、そこからは持ち回り制で生贄を担当することになった。

質問攻めで山の知識を引き出す、“山攻めの斉藤”
家庭や経歴を掘り、場を持たせる、“パーソナルディグのメグ”
そして、グフグフ言いながら一言も発さず、山田が冗談を言いかけた時だけ後ろにピッタリとくっつきプレスをかける、“無口ディフェンダーの吉住”

三者三様の生贄スタイルが確立されつつあった。

プロフィール

吉住

よしずみ|1989年、福岡県生まれ。2015年にデビューし、コンビで活動後、2016年からピン芸人に。2020年12月、「女芸人No.1決定戦 THE W」優勝。「R-1グランプリ」では2021年、2022年、2024年、2025年に決勝進出。現在、「THE突破ファイル」「ウェル美とネス子。」(ともに日本テレビ)、「吉住の聞かん坊な煩悩ガール」(GERA放送局)、「ウエストランド井口と吉住の孤独アジト」(番組公式YouTube/テレ朝Podcast)、「REQ JAM」月曜レギュラー(JFN系)などに出演中。

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