カルチャー

カントリーブレッドを自分の手で作る喜びを。

POPEYE EDUCATION CLUB Vol.2 report

photo: Masaru Tatsuki
text: Fuya Uto

2026年5月29日

 POPEYE Webがこれまでウェブサイトで展開してきた記事を授業形式でお届けする、出入り自由な教室「エデュケーション・クラブ」。その道の達人を講師に据え、日々を楽しく生きる術を、みんなで学ぶ活動です。普段私たちが体感する取材現場の熱を、よりダイレクトに伝えるために、2025年8月に開講しました。第二回は初台のキッチンスタジオで身体が喜ぶ「パン作り」を実施。春のはじまり、今年の3月31日のことです。

受講した方には特製のワッペンをプレゼント! 今後も授業内容によってデザインを変えて、配布予定です。Design by Roger McDonald (Fenberger House

 講師は広尾のベーカリー『BRØD』店主のクリスティーナさん。普段お店に通う常連さんから南は九州まで、参加いただいた16名の皆さん、どうもありがとうございました! このレポート記事を復習の機会として、また来れなかった方はどういう授業だったのか感じてもらえたら嬉しいです。

 ざっくり振り返ると、今回作るのはカントリーブレッド。まずは素材である水、小麦粉、サワードウ種を混ぜる「ミキシング」からスタート。その後、パン作りにおける発酵のメカニズム、生地の成形、クープへの入れ方、焼成とひと通り細かく学び、最終的には自分で作った生地を持ち帰る流れ。さらに実際にお店で育てている天然酵母もシェアしてもらうというてんこ盛りの内容だ。

一限目:ミキシングと一次発酵

「サワードウ作りにおいて、何が大事なポイントかわかりますか?」 開口一番、クリスティーナさんの突然のクエスチョンから授業は始まった。まだ固い場のなか、誰かが素材かな……と呟くと、頷きながらこう続ける。

「同じくらい、温度と時間が大事です。パンは発酵食品ですので、肝になるのは発酵を活発にしてあげること。室温を24℃に保ち、サワードウ種の体積が2倍に膨らんでから生地を作っていきます。表面に気泡が立ち、ほのかに酸味がある香りがすれば使いどき。ミキシングの手順としては、まず粉と温水を混ぜて、30分休ませます(最低20分、最大2〜3時間)。次にサワードウ種と塩を加え、全体がまとまるまで混ぜましょう!」

タッパーに小麦粉を用意し、温水(37度くらい)、サワードウ種、塩を入れて、手で混ぜる。

 続いて、タッパーに蓋をし、一次発酵という生地を休ませる工程へ。基本は2〜3時間ほどで十分だけど、長すぎると生地が過度に膨らんでしまい、空気の入ったきめ細かいクラムを作るのが難しくなるため、自分の好みによって時間を決めてOK。「逆にその日に時間がないときは、例えば室温を上げたり、お湯を使ったり、生地を暖かい場所に置いたりする代わりに時間を短くすればいいんです。パンを優先するのではなく、自分のタイムスケジュールに応じて工夫を重ねましょうね」とクリスティーナさん。

 そして、この発酵タイム中に欠かせないのが「ストレッチ&フォールド」だ。生地を20〜30分おきにストレッチ(伸ばす)し、フォールド(折り畳む)する楽しい手法のこと。こねないことで十分な空気が閉じ込められ、グルテンの強度も上がり、成形しやすい状態に整う。参加者のタッパーを覗くと、確かに最初のドロつきが回数を重ねるごとになくなっていくのがわかる。みるみるうちに弾力が生まれ、顔つきはお餅のようにテリっと輝き出し、生きる酵母がもたらす不思議な発酵の世界を実感する。

ちぎれないように気をつけつつゆらゆらと振りながら伸ばし、折り畳む。全部で3〜4回行う。

指で摘むとプチプチするくらい気泡が出て、きめ細かい表情になればバッチリ! 

二限目:クープ入れと焼成とランチ

 発酵を待つ間は、お昼用にあらかじめ準備してくれた焼成前の生地に切れ目を入れるマンツーマンレッスンも実施。曰く「刃は垂直ではなく45度に寝かせると、滑らかに進み、焼き上がりのパンもふっくらボリューミーに膨らむ」とのこと。いざやってみると、これがまた楽しくも難しい……! 終えたら、オーブンで焼き上げていく。

膨らみ(クープ)を綺麗に出すためのクープナイフ。美しい焼き目とふんわりした食感を生み出すために不可欠な専門道具だ。

基本は生地の表面に斜めに2本切り込みを入れる。深すぎても浅すぎてもダメで、コツは迷わず、躊躇なくシュッと。

「上手く出来るかな……」

今回使用したのは〈パナソニック〉のスチームオーブンレンジNE-UBS10D。無駄のないミニマルなデザインながら、最大300℃まで対応するタフなモデル。手順はそのまま焼くのではなく、鋳物ホーロー鍋「ストウブ」を使い、250℃に予熱させてから投入。そのまま230℃で20分、蓋を外してさらに220℃で25分ほど焼く。

 お昼は焼きたてほやほやのカントリーブレッド、デンマーク発のロブロ、ひまわりの種や亜麻仁など4種類のシードがゴロッと入ったサワードウなど、『BRØD』の看板メニューを好きなだけよそうバイキング形式。いつ食べてもとにかく旨いけれど、まさに今自分たちの手で作っているというリアリティが、より味覚の感度を上げる。きっと素材から作り方まで知っているかどうかで美味しさも変わる。

三限目:成形

 午前中に仕込んだ生地が十分発酵した午後はいよいよ成形を。軽く打ち粉をしたテーブルに、お手製の生地を出し、スクレーパーで丸くまとめていく。見ていると、さらりとものの数十秒でできる猛者もいれば、粘り気と延々と格闘する僕らと同じ素人も。年齢はもちろん、動機も「デンマークに留学していた頃に感動したサワードウを自分でも作りたくて」「趣味でやっているドーサ作りのヒントとして」とさまざま。作り方を学ぶという志は一緒だから、各所で「スクレーパーを机にこすりつけるように手前に引くといいよ」「左手は水をつけたほうが手にくっ付かなくてやりやすい」などと発見と知恵を分け合っている様子だった。普段は他者として過ごす16名が、サワードウを通して自然とコミュニケーションを取る一一この営みこそ、クリスティーナさんが伝えたいデンマークの平和な文化であり、目指すべきエデュケーションの在り方なのかもしれない。

成形した生地は表面に粉をふり、綴じ目を上にしてバヌトン(発酵かご)に入れる。その名の通り、ここでも発酵の力が必要だ。室温そのままに3時間ほど置いておくもよし、冷蔵庫で一晩寝かせるもよし(オススメは後者のよう)。いずれにせよ最終発酵がすめば、後はオーブンに任せるだけ! 先述したとおり、今回はこれを持ち帰る流れ。

「今日は来てくれてありがとうございました! 家で作ってみて質問があったり、うまくいかないことがあったら、皆さん気軽に連絡してくださいね。私もいつも試行錯誤を繰り返しています。その日の温度や湿度、触る人の感情によって異なるサワードウの旅に終わりなんてないのです」

『BRØD』で使っているサワードウ種を惜しみなくシェアして閉幕。餌をちゃんとあげて可愛がれば、一生パンに困りません。

教えてくれた人

Kristina Ganea Bertelsen

クリスティーナ・ガニア・ベアテルセン|1974年、モルドバ生まれ。2018年に夫の仕事の関係で、家族でデンマークから東京に移住。オーガニックで身体にやさしいパンを娘に食べさせるために、国産小麦粉をはじめとする材料のリサーチやパンの勉強をしながら自宅で毎日パンを焼き続け、2022年12月に広尾にサワードウ・ベーカリー『BRØD』をオープン。挽きたての石挽き粉を使い、サワー種で長時間発酵させたパンにこだわっている。

Official Website
https://www.brod.jp/

Instagram
https://www.instagram.com/brod.jp/