トリップ
山の味覚の王様・サマーポルチーニを探せ!/後編
岩手県でキノコ狩りは古くから生活の一部として親しまれてきた。それは、やはり森林環境に恵まれていたから。具体的に言うと、県土の南北に走る2つの山地「奥羽山脈」と「北上高地」、それらに挟まれるように流れる「北上川」の存在だ。針葉樹と広葉樹が共に繁茂し、川がその森に湿度という潤いを与えることで、自然とキノコの生育に最適の環境に。中でも、今回足を運んだ「八幡平」は特に種類が豊富な山。にもかかわらず、歩きやすい緩やかな遊歩道なので、キノコ狩りの入門にぴったりの場所なのである。
そんな地で、18歳からキノコ狩りを愛する菅原徹さんに案内をいただき、サマーポルチーニを探す。
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結論から話そう。今回サマーポルチーニは採れませんでした! 注意深く探しても一向にない。東京から車で片道6時間強かけて来たこともあって正直凹むけれど、この事実こそ「野生のキノコとの向き合い方」の神髄である。
「野生のキノコはないときはないんです。八幡平で生えていないのだったら、他の山に行っても同じですね。一方で、シャカシメジの子供を確認できたのは、この季節だからこそ。このことからわかるように、その年の気候条件に合ったやつが多く出てきます。今年は例年より暑くて、雨が少なかったですからね……。地中の菌糸体は、本当に好きなタイミングでしか子実体として現れないんですよ」
確かに、本来「自然」というものは決して人の思いどおりにならなければ、常に変わりゆくもの。普段手にする袋詰めされたキノコも、一年を通して食卓に並ぶように栽培していることが大半。食べものの認識が少し矯正されたことに気づく。スーパーの有り難みも増す。とはいえ、やはり岩手県はキノコ大国だ。こんな多種多様なキノコが採れた!
左から、シロハツモドキ(ベニタケ科)、ヒロヒダタケ(ホウライタケ科)、オキナクサハツ(ベニタケ科)、クサウラベニタケ(ベニタケ科)、?、オシロイタケ(推定)、オニイグチ(推定)、キシメジ科(推定)、ハナガサイグチ(イグチ科)。中央の葉っぱに添えられているのは、チチタケ(ベニタケ科)。栃木の郷土料理・チタケうどんで使われる高級品で、この中で一番旨い。傘や軸に傷をつけると、白い乳液を分泌することが名の由来。「今回はベニタケ科が多かったですね。こういったように、その気候で同じ種類のキノコが多く出ているんです」と菅原さん。
「見ただけで判断できる種類もありますが、基本は7〜9種類以上の判断材料を持ってから断定するようにしています」と菅原さん。詳細が書かれた図鑑もなくてはならない相棒だ。
並べてみても、全く知らないキノコばかり。それもそのはず、国内だけでも4,000種類以上あるという。サイズや色味、傘の裏や茎の形状など実にさまざま。毒か否か見分ける鑑定眼はもちろん、キノコが生えやすい場所(松茸界隈では“シロ”と呼ばれる)の知識が欠かせない特殊な存在なのだ。菅原さんが祖父から教わったように、それらの知識は親から子へ、祖父母から孫へと、世代を超えて受け継がれる大切な「知恵」であり、キノコ狩りは家族や地域の「コミュニケーションの場」でもあるのだろう。
「そうですね。自分の場合は帰りの車内でおじいちゃんに学びました。山に連れて行ってもらって、まずはよくわからないまま採ってみる。それを後から見せて、判断してもらいながら、だんだんと覚えていく感じで。本当にキノコは奥が深いんですよ。単に地面から生えている存在ではなく、シロハツモドキ(写真左)が齧られていることでわかるように、虫からすれば食料なわけで。また、はじめに見つけたツリガネタケのように、樹木に寄生しながら分解し、土に還す役割もあります。落ち葉もそうですね。森全体の循環と生き物の営みを支えているんですよ」
森の掃除屋であり、森の生態系を支える。もはや食べものに思えなくなるほど優秀な役割を持つキノコは、世にも不思議なリング状のコロニーとなって現れる。通称「フェアリーリング」と呼ばれるそれだ。
方や視線を上げると、樹皮に熊の爪跡が…..! 次々と遭遇する動植物の気配から、森にお邪魔する、という感覚が徐々に強くなっていく。この森ができあがるまでの果てしない時間を想像する。きっと、それぞれが共存するここでは無駄なものはないのだろう。例えば、ただの雑草かと思っていた葉っぱが、実はキノコとキノコの間に入れるクッションとして活用できたりもするのだから。「ホオノキの葉は便利ですよ。葉っぱ→キノコ→葉っぱ→キノコというふうに、サンドウィッチ状に収穫していけば、形が崩れなくて済みます。新鮮なキノコは約90%が水分で、思った以上にデリケートなんですよ」
ホオノキの葉。殺菌と抗菌作用がありつつ爽やかな芳香なので、昔から食べ物を包んだり、お皿として活用されているらしい。
約2時間歩くだけでも、さまざまなキノコを通して、猛烈に山の知恵が蓄えられていくフィールドワーク。今回収穫したもので言うと、大きな特徴のあるチチタケは自信を持って見分けられるようになった。採って楽しい、観察して山を学べる「野生のキノコ」をもっと覚えたい。秋の大本命・ポルチーニのリベンジに燃えて、山を後にした。また10月に!
・ここからは、イベントを運営する「くらしごとユニオン」の「キザシONLINE SHOP」に移行します。
・イベントの運営に関するお問い合わせは「祭り法人射的」宛にお願いいたします。
教えてくれた人
菅原徹
すがわら・とおる|1987年、岩手県生まれ。18歳のころにはじめて祖父と山へ入って以降、キノコと山菜を生活の一部とする日々を送る。「盛岡つどいの森」や県内各地の緑化センターなどで、キノコの見分け方指導や展示など幅広く活動中。岩手菌類研究同好会所属。スタッフとして働く『the campus』ではキノコ&山菜ハントツアーも開催している。
Instagram
www.instagram.com/tttsugawara/
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