カルチャー

坂本湾は『WE ARE LITTLE ZOMBIES』の子供たちにニヒリズムと戦う姿を見た。

今日はこんな映画を観ようかな。vol.12

2026年3月12日

illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada

毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回のゲストは、2025年に第62回文藝賞を受賞し、小説家デビューを果たした坂本湾さん。紹介してくれたのは『WE ARE LITTLE ZOMBIES』だ。


今日の映画
WE ARE LITTLE ZOMBIES(長久允監督、2019年)

©2019 “WE ARE LITTLE ZOMBIES” FILM PARTNERS
各種プラットフォームにて配信中

両親を亡くした4人の13歳が火葬場で出会う。まるで感情を失ったゾンビのように泣けなかった4人は意気投合。バンドを組むとたちまちデビューが決まって人気を博するが、そこには新たな問題が待ち受けていた。


 僕は幼い頃からニヒリズムにどっぷり浸かってきたような人間なんですよ。生まれたときからインターネットがあって、これから死ぬまでにどんなことが起きて、何が大変かっていうことは、あらゆるモデルケースにネタバレされちゃっている感覚が強いからかもしれません。だからこそ、生きる上でそのニヒリズムから抜け出したい、戦いたいって思いが強くある。『WE ARE LITTLE ZOMBIES』はまさにそれをテーマにしていて、初めて観たときは「こういう作品を探していたんだ」と感動しました。

 親を亡くした4人の子供たちが、バンドを組むという物語です。彼らは親が死んだのに、悲しくもなければ涙も流さない。ただ、口ではそう言っているんだけど、実際めちゃめちゃ両親の愛を求めているんですよ。例えば、主人公のヒカリは、自分がかけている眼鏡をよく触るんですが、それは親の愛の象徴なんです。なぜなら、自分の視力が落ちたのは、親によって買い与えられたゲームのせいだから。そこにはニヒリズムも皮肉もなく、ただもっと愛されたかった彼の思いが伝わってくる。4人の「悲しくなさ」と「愛されたさ」を、明確に見せてくれるところが好きなんです。

 観たことがないような映像や構図が連続するのも新鮮でした。加えて、4人が列になって歩く姿を真上から撮った、露骨なまでに『ドラクエ3』的なシーンをはじめ、ゲーム文化にオマージュを捧げるような映像表現も数々あるんですが、僕は言語を習得する前から『ドラクエ』をプレイしていた人間なので、グッとくるしかありません(笑)。

 劇場で5回、DVDでも10回は観ているくらい大好きな作品なので、僕のデビュー小説『BOXBOXBOXBOX』にも影響は確実に与えています。実際、当初の予定では『WE ARE LITTLE ZOMBIES』みたいに、虚無主義に対抗する一種の答えを出す予定だったんです。だけど、僕の思想的な成熟がまだまだだったから、それはできなかった。『WE ARE LITTLE ZOMBIES』は、その1歩を描いてる。結末自体には実はまだ承服しかねるところがあるのですが、自分には力及ばなかったところに挑戦するその姿勢に学ぶため、今後も観直し続けるんだろうと思います。

語ってくれた人

坂本湾は『WE ARE LITTLE ZOMBIES』の子供たちにニヒリズムと戦う姿を見た。

坂本湾

さかもと・わん|1999年、北海道生まれ。幼少期を宮古島や福岡県で過ごす。2025年、『BOXBOXBOXBOX』で第62回文藝賞を受賞し、小説家デビュー。同作は第174回芥川賞にもノミネートされた。

プロフィール写真
撮影:平松市聖

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