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アートと本を横断する新たなカルチャースポットが目指す、書棚のコスモロジー。
『NONLECTURE books/arts』代表・持田剛さんにインタビュー。
2026年3月27日
photo: Hiroshi Nakamura
text: Ryoma Uchida
「アートブックはまだまだ過小評価されていると思っているんです」
渋谷・スペイン坂に新たに誕生した『NONLECTURE books/arts』代表の持田剛さんは言う。ビルの地下を降りた先には、写真集、現代アート、グラフィティ、音楽、映画、聞いたこともないようなインディペンデントなアーティストから、アートムーブメントを象徴する一冊まで……“過小評価”と持田さんが言うのも納得するくらい、面白そうで、眺めているだけで感受性をビンビン刺激するような本たちが肩を並べる。さらには展示イベントやおいしいお酒も楽しめるときた。地下の広々とした空間で、本とアートを横断し楽しむ秘密基地のようだ。持田さんに、開店するまでの経緯を伺った。
「私が『TOWER RECORDS』へ入社したときは、今に比べてまだまだ小さいお店でした。ヒップホップの元ネタとしてジャズも聞いています、とか言っていたらジャズの販売担当に。数年間、必死に勉強しましたね」
あらゆるジャンルのサブカルチャーが開花していた90年代。持田さんが過ごした渋谷でも、ギャル文化や、いわゆる「渋谷系」音楽など、独自のストリートカルチャーが醸成されていた。『CISCO』や『HMV渋谷』『WAVE渋谷店』『Manhattan Records』をはじめ輸入音楽レコード店、小バコが群雄割拠するこの場所は、音楽の街であり、文化の発信地。’95年に新装オープンした「タワーレコード渋谷店」は、8階建てのビルが丸々CDショップとなった店舗に、売り場面積は約1,500坪。類を見ない超大型店だ。
「タワレコ内で本を扱う『TOWER BOOKS』のフロアチーフになりました。音楽が“花形”みたいな意識が社内にありましたが、僕からしたら嬉しかったんです。高校生の頃に受けたビートジェネレーションの衝撃、中上健次の小説、哲学や思想書などのゴツい本も好きだったことも思い出して。サブカルチャーは音楽だけじゃないですからね。『TOWER BOOKS』で仕入れていたのは主に洋書で、スケーターやグラフィティーカルチャーが80年代から広がり次の胎動がみられた時期で、そういったアートの周辺も追っていましたね」
最新の美術表現を追いかけるアーティスト、海外紙を求める大学教授、ハーレクインロマンスを買いにくる人。様々なお客さんがやってくる店内で、幅広いコネクションと選書眼が養われた。その後、持田さんは『代官山蔦屋書店』立ち上げのための「準備室」に携わり、世界中のブックフェアや版元と関わることに。2014年からは〈マーク ジェイコブス〉が手がける原宿の書店「ブックマーク(BOOKMARC)」のディレクションを行った。
「2023年の閉店まで、かなり自分の好きなように仕入れを任せていただいて、とても楽しかった思い出です。ここで特徴的だったのは、地下の空間にギャラリースペースがあったことです。この試みは実は東京店で初めて行ったことなんですよ。サイン会、展示、音楽イベント……計200件近くのイベントをやってどれも盛況でした」
長年、渋谷エリアでカルチャーの成熟と道を共にしていた持田さん。ベストセラーや話題作に偏らず、建築、デザイン、哲学、アートなど多様な領域にまたがって文化を考えること、広く現実の場を持って人々が集う空間を作ること、これまでの様々な経験が今回の『NONLECTURE books/arts』に結実している。
『NONLECTURE books/arts』は、その店名を詩人・E.E.カミングスの本から採った。生涯で900篇以上の詩を書き、画家、随筆家、劇作家として活躍したモダニズムの巨人が、母校のハーバード大学で行った講義録『i: six nonlectures』だ。カミングスが講義したのは、詩の核心でも、創作術でもなく、生き方についてだった。講義であり講義でない、大切なことを伝える場。「nonlecture」とは詩的な言葉遊びだ。「押し付けがましく何か教説を垂れるような場所ではなく、形式に縛られず自由な関係で本とアートを楽しんでほしい」持田さんはお店で目指す形をこの言葉に託した。
最近では「洋書の輸入も円安の煽りも受けている」と持田さん。それでも、この書店では採算度外視の希少本や“本当に”手にとってほしい本を並べた。ジャンルを限定せずに、全てがひとところに集まっている。あらゆる文化の面白さを示す本たちだ。
「売れているものがより売れるし、既に人気なものがより人気になる。ポストインターネット社会と絢爛を極める消費社会のハイブリッドで、一つの方向へ向かう勢いはむしろ増していると思うんですよね。けれど、”売れているからいいんだ”とは判断しないで、自分の選定、自分の審美眼を持つことが大事だと思うんです。
僕はアートブックはまだまだ過小評価されていると思っていて。世界中のアートシーンやトレンド、歴史のダイナミックさを視覚的に堪能できますし、得体の知れない未知のアートやカルチャーにたくさん触れられるんです。今、円安で海外にもなかなか行けないけれど、面白い本をたくさん手にして、自分の部屋の書棚にアートの小宇宙を作ってみてほしいですし、それが自分のなかに豊かな文化を育んでくれるはずです。お店としても、色々なお客さんに快適に過ごしてもらいつつ、“得体の知れない”展開を目指していきたいですね」
おまけ
📚持田さんからPOPEYE Web読者におすすめ本4選📚
『NONLECTURE books/arts』へ行ったらぜひ手にとってみて!
左奥 『Mati & the Music: 52 Record Covers 1955-2005』
マイルス・デイヴィス『Bitches Brew』、サンタナ『Abraxas』、ジョン・ハッセル『Aka Dabari Java』などなど、画家のマティ・クラーワインが制作したアルバム・ジャケットに登場する52点の絵画を紹介する。
左前 David Wojnarowicz『ARTHUR RIMBAUD IN NEW YORK』
もしも70年代末、NYにアルチュール・ランボーがいたら……。自身の人生に重ね、ランボーの短く放浪的な青春時代を再現したアメリカ人アーティスト、デイヴィッド・ヴォイナロヴィッチの作品集。
右奥 Kelli Connell『Pictures for Charis』
写真家エドワード・ウェストンとそのミューズでありモデル、チャリス・ウィルソンが過ごした時間をテーマにした作品集。かつて2人が生活し、創作活動を行い、共に時間を過ごした場所で、写真家、ケリー・コネルがポートレートと風景写真を撮影していくことで、かつての歪な関係を問う。
右前 Vinca Petersen『Future Fantasy』
屋上レイヴや、スクワッティングなど、アシッドハウスシーンの当事者であり、現在は写真家、パフォーマンスアーティストとして活動するヴィンカ・ピーターセンが、ノートや日記的に撮っていた写真を元にしたヴィジュアルブック。ロンドンのクラブシーンの生の声がずらり。
インフォメーション
NONLECTURE books/arts
東京都渋谷区宇田川町16-9 ZEROGATE B1F
営業時間 11:00〜21:00
Official Website
https://nonlecture.jp/
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