ファッション
あなたにとってスタンダードって?/桑田悟史
What’s Standard?
2026年1月2日
スタンダードという言葉はあまりに広義だ。デザイナーにとってこの言葉は、どんな意味を持ち、自身のものづくりとスタイルに影響を与えているのだろう。
『ルールを知った上で逸脱するのは楽しいです。』
和洋折衷を掲げ、ミラノを拠点に「オリガミジャケット」なる立体的なスーツを仕立てる〈SETCHU〉のデザイナー、桑田悟史さん。その経歴はまるで映画だ。BEAMSで販売員として働いたのち、英語も話せないのに渡英。高級紳士服店が並ぶサヴィルロウで「働かせてください」と書いた手紙を持って店を回り、『H・ハンツマン&サンズ』に雇われた。サヴィルロウはキャリアが始まった場所であり、スタンダードを形作った場所でもある。
「僕の中でのサヴィルロウは振る舞いそのもの。シャツで店を出ると『それは下着だ』と怒られる。食事をする場でジャケットを脱いではいけない。そういうスタイリング的なエレメントというか、細やかなルールをたくさん教わりました。22歳から25歳までを過ごし、その頃覚えた文化がすっかり身に沁みています。これがわかっていないと、〝外した〟はずのスタイリングが〝外されてる〟状態になりかねない」
ビスポークの素晴らしさも、サヴィルロウで身を以て体感した。
「お金はなかったんですけれど、当時のサヴィルロウはすごく人間味があって、〈ジョージ・クレバリー〉で相談したら『少しずつ払ってくれればいいから』って。20年たちましたがその革靴は今も僕の足にぴったりで、1日履いてもスニーカーより疲れない。ある日、『ハンツマン』にも10代の青年が恥ずかしそうに『ひいおじいちゃんが着ていたんですが直してくれますか?』と古いスーツをお持ちになったんです。ポケットには1920年と刺繍。直したら『ハンツマン』のスーツになりました。ひ孫だから骨格もぴったり。ビスポークは良質なスタンダードなんです」
自身のスタイリングを考えるとき、外せないのはジュエリーだという。
「自分のポジショニングのためにも大事で、服によってボリュームを変えます。定番は英国伝統のシグネットリング。でも、わざと人がしないようなスタイリングをするのも好きで、太くてブリンブリンのチェーンを着けたりも。カニエ・ウェストの下で働いていた影響と思われがちですが、これもサヴィルロウの伝統。働く人たちは実はチャンキーなネックレスやブレスレットをしてるんですよ」
旅先で薬代わりに飲むコーラや、嗅覚と記憶を結びつける香水、旅先で必ず行う釣り。様々なスタンダードがあるが、〝人と違う〟というユニークさもまた、桑田さんなりのスタンダードだ。経歴がそれを物語っている。
「僕は怠け者でレイジーで、だから最短を探そうとする。BEAMSに入るときも『イギリスに行く旅券が欲しいです』と言いましたし、履歴書の書き方すら知らずにサヴィルロウに向かった。人生は短い、後悔はしたくない。だから思い立ったら何でもしますね」
スタンダードから連想することばは?
・コカ・コーラ
・シャネルのNO.5
・サヴィルロウ
・ビスポークの靴
・旅先での釣り
プロフィール
桑田悟史
くわた・さとし|1983年、京都府生まれ。高校卒業後、BEAMSで販売員として働き、21歳でロンドンへ。セントラル・セント・マーチンズで学びながら、名門高級紳士服店が並ぶサヴィルロウの『H・ハンツマン&サンズ』でテーラリングを経験。その後〈ジバンシィ〉やカニエ・ウェストのオフィスなどで働き、2020年にミラノで〈SETCHU〉を立ち上げる。2022年に「Who Is on Next?」で最優秀賞、2023年に「LVMHプライズ」を史上初の満場一致で受賞。
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