カルチャー

この女たちのすべてを語らないために観たい3作。

9月はこんな映画を観ようかな。

2025年9月1日

『テイク・ミー・サムウェア・ナイス』
エナ・センディヤレヴィッチ(監)

©2019(PUPKIN)

 オランダに暮らす少女アルマは、離れて暮らす病床の父を見舞うため、故郷ボスニアを訪れる。パステルカラーを基調とし、デザインされ尽くされた構図の寄りと引きのショットをリズミカルに組み合わせながら描かれる本作は、ファッション雑誌のようで楽しい。しかし、単なるおしゃれ映画かといえば、そうではない。ずっと憂鬱そうな表情なアルマと、結果的に祖国を捨てた彼女に冷たい従兄弟エミル、彼の親友でむしろボスニアから脱出したいらしいお調子者のデニスの珍道中を通して炙り出されるのは、ヨーロッパにおける東西の対立なのだから。そのバランス感覚が新鮮だ。9月13日よりシアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開。

『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』
ウェス・アンダーソン(監)

Courtesy of TPS Productions/ Focus Features ©2025 All Rights Reserved.

 今度のウェス映画の舞台は、1950 年代のフェニキアなるヨーロッパの大独立国だ。常に暗殺の危機に晒されている大富豪ザ・ザ・コルダの夢は、同国の全域にインフラを整備するプロジェクト「フェニキア計画」を完遂すること。ところがどっこい邪魔が入り、計画は暗礁に乗り上げる。そこで彼は後継者に指名した修道女として暮らす娘リールズを従え、癖の強い出資者たちを巡る旅に出るが……。久しぶりに謎に複雑な入れ子構造がなく、素直に楽しめるウェス流冒険活劇になっている。リールズを演じた新人ミア・スレアプレトンはレア・セドゥにしか見えないが、実際はケイト・ウィンスレットの娘なんだって。9月19日より全国公開。

『九月と七月の姉妹』
リアン・ラベド(監)

©Sackville Film and Television Productions Limited / MFP GmbH /

 ヨルゴス・ランティモスのパートナーであり、役者としても活動するリアン・ラベドの長編監督デビュー作。原作は1990年生まれのイギリス人作家デイジー・ジョンソンの同名小説だ。描かれるのは、10ヶ月違いで生まれた姉妹セプテンバーとジュライの、仲良しというには共依存的すぎる関係性。2人が興じる「危険な遊び」が、『ヘレディタリー/継承』の前半戦的な「なーんか怖いな、なーんか嫌だな」っていう不気味なテンションで描かれていく。内容から言えば、最近注目されている”シスターフッド”映画に違いないが、本作で肉迫されるのは、そのポジティブな面ではなく闇と言えるかもしれない。9月5日より全国公開。