カルチャー
どこにも旅立たないことにした夏休みに観たい3作。
8月はこんな映画を観ようかな。
2025年8月1日
text: Keisuke Kagiwada
『キング・オブ・ニューヨーク』
アベル・フェラーラ(監)
刑期を終えた中年の白人男が絶望的な表情で牢獄を後にする。男はサウスブロンクスで黒人ギャングを束ねる顔役、フランク・ホワイトだ。やがて彼は、絶望的な表情のまま、警察も巻き込んだ麻薬ビジネスをめぐる戦争に参戦することになるだろう。興味深いのは、彼がその間、ほとんど”外”に出ないこと。有刺鉄線の張り巡らされた牢獄から車でまず向かうのが、同じくらい頑丈そうなゲートに閉ざされた家なのは象徴的だ。ある建物の中にいたかと思えば次のカットでは別の建物の中にいる彼が(移動シーンがあったとしても車や地下鉄の中)、その肌を外気に晒すシーンは劇中でほとんどない。そればかりか、警察と壮絶なカーチェイスを繰り広げて車が大破した後、1人だけなぜか忽然と姿を消してしまうことすら。世界それ自体が窮屈な牢獄で、囚われの身である彼は外に出ることを禁じられているかのよう。だからこそ、その後に待ち受け……あとは言わぬが花でしょう。8月22日よりシネマート新宿ほかにて全国順次公開。
『ユニバーサル・ランゲージ』
マシュー・ランキン(監)
舞台は雪の積もるカナダのウィニペグ。実在する街ではあるものの、本作ではペルシャ語とフランス語が公用語となり、イラン文化が強く反映された場所。架空の設定が加わっている。そんな世界において描かれるのは、メガネを七面鳥に奪われた同級生のために、氷の中に埋まったお札を取り出そうと東奔西走する幼い姉妹と、彼女たちが出会う一風変わった者たちをめぐる人間模様。ところで、ウィニペグの映画監督といえばガイ・マディンという鬼才がいて、彼はこの街がいかに退屈であるかを描くことでお馴染みだ。本作でも、劇中に登場するツアーガイドは、何の変哲もない駐車場を名所として案内する。しかし、にもかかわらず、そんな退屈なウィニペグの風景が、本作ではとんでもなく素敵に映し出されるのはどうしたことか。カメラの置き方次第で世界はこんなにも輝くのかと驚くしかない。その視線は、物語の描き方とも通じている。なぜなら本作が描くのは、一見すると嫌な人々でも、別の角度にカメラを置けばいい人かもしれないことを、オフビートなタッチで伝えてくれる物語なのだから。8月29日よりシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開。
『アイム・スティル・ヒア』
ウォルター・サレス(監)
1970年代、軍事独裁政権下のブラジル・リオデジャネイロ。幸福を絵に描いたようなパイヴァ一家の暮らしは、家長であり政府に批判的だった元下院議員のルーベンスが強制連行されたことにより一変。さらには、彼の妻であり母のエウニセ、娘の1人まで連れて行かれることに。彼女たちは解放されたものの、ルーベンスは行方不明のまま。かくして、エウニセが真相を暴くために動き出すという、実話を元にした作品だ。そんな本作において重要となるのが、写真に他ならない。一家は家族写真を撮ることをならわしとしており、海辺で友人たちを含む楽しげな撮影シーンが冒頭に据えられる。しかし、連行された後、暴力的に顔写真を撮られたエウニセが取調室で見せられるのはファイリングされた反政府活動家たちの顔写真だし、解放後、彼女が軍の横暴を告発すべく国外の新聞に掲載するのも父不在の家族写真。写真は、単に幸せな時間の記録という意味だけなく、ときに攻防の武器にもなるのだ。今やクラウドに大量に保存され、現像されることはもちろん、顧みられることすらほとんどない”データ”になってしまった写真(それは本作のラストを飾る現代パートでも暗示される)が、もっと重要だった時代の記憶としても興味深い作品だ。8月8日より公開。
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