ライフスタイル

家の猫の話 Vol.26/文・ピエール瀧

2026年4月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

今回は猫を飼っていない人にはあまりピンとこない爪研ぎの話です。

人間の場合だと、主に女性がヤスリ等を片手に爪の表面をピカピカに磨いたり、爪の先っちょの形を整えたりして、美麗で妖艶な指先を手に入れるためにやっている印象がありますが、猫の場合だと目的がちょっと違います。

猫の場合は、爪の引っかかりやすい場所(ソファーとか)や、専用の爪研ぎ(主にダンボール製)を前足でバリバリやってうっとり&サッパリするのですが、その目的は爪先を削って形を整えている訳ではありません。オイラがうちの猫を日々観察して解ったヤツらの爪研ぎの真の目的は、“爪ストレッチ”です。

猫の爪先は爪の部分を指の奥に収納できるようになっており、いざとなった時に爪を露出させて攻撃します。爪は普段は収納されているので、通常の猫の手のひらは人間にとっての危険はなく、プニプニした肉球を「触りたいのかい?じゃあ触りなよ」なんつって無抵抗に触らさせてくれます。しかし、いざ危険が迫るとジャキン!とウェポン(爪)を出して、コンマ何秒の素早さで正確に攻撃します。ほぼウルヴァリンですね。

この爪をいつまでもしまったままにしておくのは彼らにとってあまり快適ではないらしく、定期的ににゅ~っと伸ばしてストレッチをすることが精神的な健康のために必要なようです。うちのコロッケもブイヨンも毎日数回しますし、コンブも定期的にやっていました。

猫が爪研ぎに爪先を引っかけて、爪を目一杯まで伸ばしてから納める一連の行為は、例えると武士が刀を抜刀して納刀する動きのようなもので、爪研ぎをバリバリやるのは抜刀(シャッ!)、納刀(チン!)の動きを繰り返しているようなモノです。これは傍目に見ると相当ヤバい行為なのかもしれません。シャッ!、チン!、シャッ!チン!、シャッ!、チン!、…はぁ、うっとり♡ ですから。ヤツらが夢中で爪研ぎをしてる最中は眼がどこも見ていない色合いになっているのもヤバさを増幅させています。また、実は後ろ足の爪研ぎはしないというところも、武器のメンテナンス観点の裏付けでもあります。自分的にはですが。

では、伸びすぎた爪を短くするという身体的な健康の対処はどうするのか?もちろん人間が切ってやるということはできます。しかし、ウチの場合だと、コロッケは切らせてくれるのですが、ブイヨンはほぼ無理。これまで通算でたった数回しか切った記憶がありません。おかげでブイヨンの爪は常に鋭いことこの上なく、そのせいでソファーカバーやクッションにちょいちょい引っかかってしまい、「あれ?爪が!?なにこれ?手が不自由でイラつく~」ってなってる瞬間をよく見ます。ブイヨンそれ自分の爪なんだよ、パニックになるなって(笑)。

こんな調子でも、爪が伸び放題過ぎてブイヨンが歩きにくくなったりすることはありません。猫の爪は何層かの層構造になっており、ある程度までいくと、爪の一番外側の層がポロッと剥がれる落ちるみたいです。ひと安心。

このおかげで、ウチのリビングの床には定期的にカマのような形のブイヨンの鋭利な爪が落ちています。その痕跡は、マキビシや小鎌が落ちているようでもあり、見つけるたびに「なんか忍者っぽいな」と思いながら拾って眺めています。

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』(Netflix)、映画『宝島』(大友啓史監督)映画『ホウセンカ』(木下麦監督)のほか、5月上演予定の舞台『はがきの王様』など多数出演。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/