カルチャー
Singing with “Besties”, Forever!!
祝・ツアー完走。Black Country, New Roadにインタビュー。
photo: Hiroshi Nakamura
translation: Tsukasa Tanimoto
text: Miu Nakamura
edit: Ryoma Uchida
2026年1月22日
針の穴に糸を通すように正確に合った音。多様な楽器や3人体制のヴォーカルが繰り広げる、伸びやかで自由なメロディー。イギリス出身のバンド、Black Country, New Roadのメンバーたちは、紛れもなく音楽を愛するアンサンブルだ。磨き上げられた重奏音は、活動開始から8年が経った今も、聴く人に新たな魅力を伝え続けている。
去る12月に行われた、Black Country, New Roadの日本ツアー。大阪、名古屋、東京で行われた3公演は、大盛況。リード曲である「Besties」をはじめとした、昨年4月にリリースされた3rdアルバム『Forever Howlong』収録曲を中心としたパフォーマンスは圧巻。会場では、女性三声のハーモニー、ギター、サックス、ドラム、ヴァイオリン、リコーダー……ひとつひとつのパートが息ぴったりに丁寧に紡がれていき、このうえない多幸感が観客を包み込んだ。そのプロフェッショナリズムと、まるでメンバー間での遊びの延長かのように“楽しく”音楽をプレイする姿に心を打たれた。なにより、“仲間の音に最も敬意を払う存在”である自負がそれぞれにあることが聴いている側にもびしびしと伝わり、バンドの今の姿がとても美しく思えた。そんな彼らのことをもっと知りたいと思い、東京公演の翌日、メンバーのルイスとルークに話を伺った。
↑↑最新アルバム『Forever Howlong』を聴きながら読んでみてね。↑↑
今回インタビューしたのは、サックスを担当するルイス(右)とギターを務めるルーク(左)の2人。取材した前日に六本木の『EX THEATER』で開催された東京公演は超満員で、公演はものすごい盛況! 朝一番の取材だったにも関わらず、最近観たり聴いたりしている音楽や本、映画から、BC,NRと青葉市子さんの出会い、パッションに満ち溢れた楽曲制作についてまで、彼らが今気になっていることをたっぷり教えてくれました。
耳が幸せだなんて、最高だ。
ーーこんにちは〜。昨夜のライブ、すごく楽しかったです!!
ルイス こんにちは、ありがとうございます! 東京公演は、日本の会場の中でもとりわけ観客のみなさんの声が大きくて。僕たちもすごくエネルギーをもらいました。
ーー東京滞在中は、どこか遊びに行くんですか?
ルーク 僕は、まずバンド初期からサウンドエンジニアをしてくれているピーター・フリントンに勧められたコーヒーショップに行こうと思ってます。エスプレッソバターをのせたバナナブレッドが絶品だと聞いて!
ルイス 僕は一旦帰って洗濯をしようかなと。ツアー中服を洗う時間がなくて、もう着る服がなくなっちゃったんです(笑)。
POPEYEの特別編集『Hello, Tokyo!』の英語版をパラパラ。「大阪では『大阪五大デニムブランド』を全部巡ろうと思っていたんだけど、結局どこも行けなかったよ」と残念がっていた2人は、東京らしいファッションプレイスもリサーチしていた。
ーーみなさん、それぞれに過ごされるんですね!
ルーク 今のところ(笑)! だけど、名古屋ではみんなで超ユニークなバーに行きましたよ。『社交酒場イム』っていう名前のバー兼レストランみたいな場所なんですが、店内の通貨があの「キューピー」だったんです。チャージを1000円払うと、4体キューピーがもらえる。独自のエコノミーにワクワクしたし、店内には日本のバンドによるフォークロックっぽい曲も流れていて、雰囲気も最高でしたよ。
ーーキューピーが通貨!! すごく気になります。ちなみに、来日して最初に聴いた曲はなんですか?
ルイス 東京に着いたときにまず聴いたのは、はっぴいえんどの『風街ろまん』ってアルバムに入っている「暗闇坂むささび変化」という曲。名古屋のバーでたまたま流れていたんだ。それから、高田渡の『ごあいさつ』も。この曲、本当に良いよね。
ルーク そうだ、その曲送ってくれたよね。すごく良かった。僕は何を聴いてたかな……。日本のアルバムではありませんが、印象に残っているのはジム・オルークの『Insignificance』というアルバムかな。前回の来日中、Betcover!!のライブを観たときに、偶然にもジム本人に会ったんです。『TC楽器』っていう新大久保のヴィンテージギターショップをおすすめしてくれて。今日は取材が終わり次第教えてもらったお店にも行く予定なんだけど、彼の楽曲も聴きながらこの日が来るのを心待ちにしていたんです。
ーー良いですね。Betcover!!といえば、ボーカル・ギターの柳瀬二郎さんとキーボードの白瀬元さんのデュオが名古屋と大阪公演に出演していましたね。そして、東京公演には、青葉市子さんが。彼らとの共演はいかがでしたか?
ルイス 最高でしたね。二組ともすごく刺激的なアーティストです。正直、立場が逆で、僕らがサポートアクトとして彼らの公演に出演していてもおかしくないバンドだと思っているので、僕たちのライブに参加してもらえたのは本当に光栄でした。自分たちが心から良いと思って、刺激を受けている音楽を作っている人たちがサポートしてくれると、ライブ全体の雰囲気がすごく良くなる。自分たちがステージに出る頃には、すでにお客さんがライブに少し満足している感じがあって、プレッシャーも軽くなるんです。
ーーライブ中に、青葉さんとはオランダで出会ったと言っていましたが、一体どのようにして?
ルーク ロッテルダムで開催された「Motel Mozaïque Festival」に出たときに初めて彼女と会いました。アーティスト同士の交流やコラボレーションをすごく大事にしているフェスで、僕らが出演した3本のうち1つは、いろんなミュージシャンが一緒にステージに上がって、フラッシュカードを引き、それに従いながら演奏するという即興的なものだったんです。
ルイス フェス側に「この中で一緒にやりたい人はいますか?」と聞かれて、ドラムのチャーリーが青葉さんのファンだったということもあり、一緒にやることになりました。彼女と何か作ってみたいと思ったんです。互いに2曲ずつくらい覚えていって、当日は数時間だけリハーサルし、そのままステージへ。それが、彼女と初めて会った瞬間でした。
ーーなるほど、ステージの上で初めて会ったんですね! 東京での公演でも、数日前に南米から帰ってきて喉が不調だと言っていたにも関わらず、大きな会場が一瞬にして心地よい小さなリスニングルームになったかのような、不思議な空気感で場を虜にしていました。
ルイス 本当に。だから、そんな彼女に「耳が幸せだった」って終演後に言ってもらえて、本当に最高でした。
行くべきところに辿り着くはず、一緒にやっていればね。
ーー12月のアジア公演をもってツアーを完走したそうですね。2025年はどんな一年だったのでしょうか。
ルーク 最高の一年でした。新しいアルバムも出たし、ツアーもできた。リリース後、ライブをじっくり育てる時間もあったので、演奏が洗練されて曲がどんどん良くなっている実感がありました。ときどきアルバムのやり直したいアイデアを思いついて、アルバム制作に戻りたくなることもあったけど、全体を通してすごく満足しています。いろんな場所にも行けましたし。
ーー今年のベストソングを選ぶなら?
ルイス 今年の曲から選ぶなら、スタンリー・ウェルチの「No More Room in Your Heart」。これは本当に完璧な曲だと思います。2025年は素晴らしい音楽がたくさん出た年でもありましたが、特にインディペンデントなアーティストの作品に心から惚れ込むことが多かったです。その中でも、この曲は頂点。EPの1曲目なんですが、全編通して素晴らしいですよ。
ルイス それから、オーストラリアのMouseatouilleというバンドも最高。今年出た『DJ Set』というアルバムが本当に素晴らしいです。ちなみに、今彼らのTシャツも着ています。
ルーク 全然新曲ではないんですが、2週間くらい前に初めて聴いた、T・レックスの「Fist Heart Mighty Dawn Dart」という曲は、めちゃくちゃ良かったです。アコースティック・パワーポップみたいな感じで、すごくかっこよくて。
ーー昨年1月にリリースされた最新アルバム『Forever Howlong』では、制作中にジョニ・ミッチェルやヴァン・ダイク・パークス、ランディ・ニューマンなど、60年代や70年代のシンガーソングライター系の楽曲をたくさん聴いたと聞きました。どのような点に魅力を感じたのでしょうか。
ルーク いい質問ですね。もちろん、80年代や90年代、それ以降の音楽も大好きなんだけど、60年代、70年代の楽曲は、ちょうど今までの音楽の流れの中でも絶妙なスイートスポットだったんじゃないかって思うんです。ポップソングとしての完成度はすごく高い一方で、テクノロジーはまだかなりシンプル。それに、当時はシンセの音色をひとつ見つけたり、エコーをかけたり、丁寧だし、曲の構成も生の状態に近くて。だから曲作りに興味があると、分解しやすいし、感覚的にも共感しやすい。多分、そういうところに惹かれたんだと思います。
ルイス 当時の音楽は、楽曲に盛り込まれた感情的な側面も重要な役割を果たしているように思います。もちろん、ヴァン・ダイク・パークスの作品は感情を前面に押し出すタイプではないので、全ての曲がそうというわけではありませんが、多くの曲がとても生々しくて、その由来を探りたくなる。この人は今きっとこういう感覚の中にいるんだな、って。それを曲やアルバムという形にまで変換しているところが、曲を書く側としてはすごく刺激的なんです。
ーーBC,NRの楽曲を聴いていると、多幸感に満ち溢れる瞬間もあれば、シンとした緊張が走るタイミングもあって、さまざまな感情が織り混ざっているのを感じます。映画や本など、違った表現方法の作品からも影響を受けることはありますか。
ルーク もちろん! 映画は大好きです。インスピレーションを明確に言語化したことはないかもしれないけど、メンバーには読書好きも多いし、僕も映画をよく観ます。特にストーリーから受ける影響は大きいですね。身近な出来事が描かれているのに、自分では思いつかない表現で語られている。そのストーリーのあり方が、作詞に新しい発想をもたらしてくれます。
ーー最近はどういった作品を?
ルーク 今読んでいるのは、ウィリアム・フォークナーの『響きと怒り』です。かなり手強い本で、最初の章がとにかく実験的。章ごとに語り手が変わるという点も特筆すべき点です。読み進めていくと、徐々に最初の章で何が起きていたか分かってくるんです。
小説というメディアならではの表現手法なので、音楽への直接的な影響は少ないかもしれませんが、インスピレーションは必ずしも直接的である必要はないと思っています。何かを読んだり観たりして感情が動いたときに、「こんなふうに人の心を動かすこともできるんだ」と思えること自体がとても大切で。もし映画も観ず、音楽も聴かず、本も読まなかったら、「今日は怒ってるから怒りの曲を作ろう」みたいな、すごく単純な表現にしかならないと思います。他の人のやり方を見ることで、繊細なニュアンスや、さりげなさを学べるんです。
ーーBC,NRは、今回のアルバムでは女性3人がボーカルを担当していて、歌唱方法もすごく魅力的だと思います。参考にしたジャンルや人はいますか。
ルイス 一番僕たちが影響を受けているのは、フォーク系コーラスを歌うアイルランド系アメリカ人の3姉妹、ザ・ローチェズだと思いますね。それから、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングも。全然違うタイプのボーカルですが、彼らはそれぞれが名シンガーで、声の個性がはっきり聴こえる。それが、僕らが目指しているところでもあります。
ルーク ザ・ローチェズは、完全に溶け合って、ひとつの声みたいに聴こえるんです。一方で、クロスビー、スティルス&ナッシュは、それぞれ全く違う個性を持っている。全部が一体になるときもあれば、それぞれの声が立ち上がる瞬間もある。ヴァースとコーラスみたいな感じで、その両方ができたら理想ですね。
ーー楽曲を制作するときは、みんなで曲を持ち寄ったりするんですか。
ルーク 実は、そこまでやってきたわけではないですね。それよりも、誰かが個人的な衝動で書いてきたものを持ち寄る感じが多いかも。
ルイス 僕らが曲を作るときって、もちろん一人ひとりに「こうしたい」という野心はあるけど、結局は曲に身を任せることが多いんです。無理に方向を定めるより、その曲に合う形に落ち着くというか。僕が以前持ち込んだ曲も、最初に思っていた完成形とは全然違うところに着地して、それがその曲の行き先だったんだな、と最後には納得しています。多くの曲で起こることですね。
ルーク やりたい方向性を持つのは大事だけど、具体的になりすぎると逆に動けなくなるんです。「ウォーレン・ジヴォンの『Werewolves of London』みたいな曲を書こう」って思ったら、たぶん固まっちゃう。この曲は今パッと浮かんだだけですけど(笑)。
ーー制作には、細かなコミュニケーションが欠かせませんね。
ルイス そうなんです。実際、とにかくたくさん話しますし、今ハマっているものや互いのおすすめなんかを常に共有しあっています。メンバーのセンスは世界でいちばん信用しているし、僕自身もそれぞれの好みもよく分かっていると思うんです。「これ絶対好きだと思うよ」と勧められてもピンとくることって正直多くはないのですが、メンバー同士なら相手が何にどう反応するか分かっているし、自分のことも分かってくれている。だから勧められたものは、ほぼ確実に刺さるんです。
ーーちなみに、お二人はルームメイトだったと聞きましたが、メンバーの中でもお互いをより深く理解しているのではないでしょうか。
ルイス そうですね……、ルークは本当にいいやつです。長い時間を一緒に過ごしてきましたし、やっぱりお互いのことをかなり深いところまで知っているんじゃないかなと。
ルーク 同居もしていたこともあり、ルイスは誰よりも僕の不機嫌さに付き合わされていると思います(笑)。
ルイス それはそうだね(笑)。
ーー最後に、2026年に挑戦してみたいことを教えてください!
ルイス ツアーの合間に、もっと曲を書きたいですね。「書かなきゃ」じゃなくて、もう少し肩の力を抜いたアプローチで。作曲をもっとカジュアルなものとして捉えたいです。
ルーク 僕も、とにかく曲をたくさん書くこと。アルバムのことは、あまり心配しない。不安になっても意味がないのでね。みんなで良い音楽を作っていきたいです。
ルイス あと、これは初出しなんですが、近いうちに、キーボードを弾く曲があるかもしれません。ライブで弾いたこともまだ一度もないんですが、鍵盤で書いた新曲を作ったんです。だからサックスパートもないし、自分としてはかなり新たな挑戦です。
ルーク チャーリーがギターを弾くのも時間の問題だと思うし、ジョージはエレキを弾くかも。メイは、ベースをもっとやっていくかもしれないし、もしかしたらドラムもあり得るかも。長くなちゃったけど、メンバーはみんな新しいことに貪欲だし、音楽的な挑戦を常に共有しながら一緒に音楽を作っていきたいですね。
インフォメーション
Black Country, New Road
ブラック・カントリー・ニュー・ロード(BC,NR)|2018年にイギリス、ケンブリッジシャーで結成された6人組のロックバンド。メンバーは、ルイス・エヴァンス(Sax)、ジョージア・エラリー(Vo/Vn)、チャーリー・ウェイン(Dr)、タイラー・ハイド(Vo/Ba)、メイ・カーショウ(Vo/Key)、ルーク・マーク(Gt)。クラシック音楽の経験を持つメンバーと、独学で演奏を学んできたメンバーによる、独特のオーケストラ的なアンサンブルが魅力。2025年1月に、3枚目となるアルバム『Forever Howlong』をリリース。それに伴い、同年に欧州をはじめ、アメリカ、オーストラリア、アジア各国などを巡るワールドツアーを開催した。
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