TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】トクチャ
執筆:勝見充男
2024年11月21日
知らないうちに集まってしまうのが”お守り”である。こちらの鞄に2つ、あちらのポーチに3つ、引き出しの中には4つか5つか、捜して数えないと幾つあるか分からない。
たぶん自分だけではないと思うのだが、どこかにお参りに行った際には、その都度祈りを”お守り”に代えて、心の拠り所にするのである。そしてまた、その気持ちを”お土産”として、人に差し上げたり、逆に頂く機会も多いから、その分、数も増えていく。
今回紹介する金属片も”お守り”のひとつである。
国はチベットで、名前は”トクチャ”という。形は様々あり、代表的な仏像のモチーフから、矢じり、密教法具、マンダラのモニュメントなど、集めたらキリがない。また”トクチャ”は”天鉄”とも呼ばれ、その語源になった言い伝えでは、カミナリと同時に天から降ってくる物だというのである。敬虔な仏教徒であるチベット人にしても、「信じている人、居ないでしょう?」と、チベット物に詳しい友人に聞いてみたら、「たぶん、それはないにしても、そう思いたくて信じようとしている人がほとんどだよ」という答えが返ってきた。そのようなチベット人が、どこからこれを入手するのか知らないが、古くは7世紀まで遡る物もあるというから、どうやら、いつの間にか家宝として伝わり、代々、鞄や衣服、髪飾りの布に縫い止め、大切に身に付けるのである。
さて、今回の”トクチャ”は”エンドレスノット”と呼ばれ、寺院のシンボルとして垂れ幕などに描かれている場合が多い。この”エンドレスノット”のモチーフは世界各国に存在するのだが、とりわけチベットでは宝結びの吉祥文で、連続する無限を意味し、永久の繁栄、長寿、多幸を願うシンボルだという。
このような有難く、崇め奉る品物なのだが、古いエンドレスノットのトクチャは、写真より大きく重たい物が多く、このようにさり気なく首から下げられる寸法は珍らしい。時代は、百年位前らしいが、余程、身に付けてから時間が経っているせいか、表面は摩耗してスベスベである。なにやら仏教のモチーフらしからぬ洒落たデザインなのが気に入って求めたが、12万円と結構高かった。 (3.5cm 合金製)
プロフィール
勝見充男
かつみ・みつお|1958年、東京、新橋に、骨董家の次男として生まれる。学生時代に西洋骨董に惹かれ、やがてやきものをはじめとする和骨董の世界に魅せられていった。西洋骨董家で10年修行の後、祖父からの屋号、自在屋を継いで四代目となった。自在屋に相応しく、和洋の枠を超えた自由な、発想と、柔らかく洒落たセンスで新しい潮流を作り続けている。テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」鑑定士。著書に「骨董自在ナリ」(筑摩書房)「そう、これも骨董なのです」(バジリコ)「骨董屋の盃手帳」(淡交社)「勝見充男大全」(目の眼) 他に雑誌などで監修、寄稿も多数。
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