ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.20/文・ファーストサマーウイカ
ファーストタウンササヅカ
2023年8月3日
cover design: Eiko Sasaki
text & photo: Kiwamu Sato
これは、
ファーストサマーウイカになる少し前の
ファーストタウンササヅカのお話。
【アパート笹塚】
家賃:4万2000円
広さ:6畳 ワンルーム
住所:杉並区方南町
最寄駅:京王線 代田橋駅徒歩9分
ここが、私の終の棲家ならぬ「始の棲家」になったアパートだ。
ご存じの方が多いと思うが、
笹塚というのは渋谷区の北西部に位置し、
方南町や幡ヶ谷と隣接している、住みやすい人気エリアの町だ。
そこで、冒頭の詳細をもう一度読んでほしい。
私の住んでいたアパート笹塚は
住所は渋谷区ではなく杉並区。最寄りは断然代田橋駅で、
笹塚駅からは徒歩20分以上かかる。
そんな立地で堂々とアパート名に”笹塚”と名付ける厚かましさは
若者向けのよほどオシャレな建物なのかと思いきや、
予想とは程遠いスペックのオンパレード。
・本来白色の部分がすべてクリーム色or茶色に変色
・隣人の話し声がBGMになる薄い壁
・歩くたびリズミカルに鳴ってしまう全床
・1メートル四方の激狭シャワールーム
・ひと1人がギリギリ通れる細階段と細扉
・洗濯機を置くベランダはグラグラ&丸見え
・1階は謎めいた大家さん在住
・家まで送ってもらった先輩に「ここに住んでるの?」と引かれる程の外観
・先にベランダに猫が住み着いている など
猫以外はかなりハードコアな環境だった。
A.なぜそんなアパートを選んだのか。
Q.圧倒的な家賃の安さに加えて
まず徒歩圏内の環境の豊かさ。
真裏にはみんな大好きドン・キホーテ
国道沿い激安のリサイクルショップ、
大型スーパーから十号商店街
金魚屋さんや隠れ名店のラーメン屋など
ほのぼのレアスポットも多数あって飽きなかった。
あとなんといっても新宿が近い
京王線2、丸の内線1の3駅利用可
下北沢もチャリですぐ
渋谷方面にもバスで一本という
立地の利便性と住みやすさ。
A.そもそもなぜ「笹塚」を選んだのか。
遡れば、2013年4月2日。忘れもしない嵐の夜。
俳優で大成したいという夢を抱え、
バイトも事務所も何のアテも無いまま、
テレアポOLやって貯めた100万円で、1人上京してきたのだ。
笹塚は新宿、下北沢も程近いので
演劇人やバンドマンなど夢見る若者が集っていて
実際関西の先輩も多く住んでいると聞いt…..
すみません、嘘です。
いや嘘では無いんですが、
これは表向きの理由で、本当のこと言うと、
当時、幡ヶ谷に好きな人が住んでいたんです。
上京直前、数ヶ月遠距離恋愛みたいな感じだった人に、
2月くらいに振られちゃって。
上京は決めていたし、近くはもちろん
なんなら一緒に住めたりするのかな?って浮かれてたもんですから、
もう全然諦められてなくって。
幡ヶ谷って文字を見るだけでドキドキするくらい
舞い上がってた一番盛り上がってた時期だったから
もちろん幡ヶ谷とか付近の甲州街道沿いしか調べてなくって。
いや、いっそ忘れるために
全然違うエリアにしようとも思いました。
でもTOKYOに夢見る22歳の初夏ちゃんは、
未練すら興奮に変わって活力になるのです。
甲州街道沿いでバッタリ会って
「じゃあ飲み行く?」
なんてことあるんじゃない?!!
あるんじゃないの!?!?
と、運命的な再会に一縷の望みを託して
毎日がドキドキに溢れるTOKYO LIFEを選択したんです。
毎回無駄に幡ヶ谷で降りて
マクドのポテト食べながら2キロ歩いて帰ったり
彼と仲の良い人がやっているカフェの前をやたら通ったり
夕暮れに失恋ソングを聴いて泣きながら水道道路を散歩したり
断ち切ろうと新しい出会いを求めて
幡ヶ谷〜笹塚間の飲み屋という飲み屋を1人飲み歩き、
知らないおじさまに毎度「Facebookやってる?」と聞かれ嫌気がさして行かなくなったり…
そんな過去を取り戻そうと幻影を探し続けた
淡く切なく、よく考えるとまぁまぁキモい青春の日々は、
私を少し大人にしてくれました。
結局、1年半過ごしたこの街で
彼とバッタリ会うことはなかった。
会わなくてよかった。
会えなかったからこそ、
今も笹塚が私にとって特別な街であり続けている。
ありがとう、ファーストタウンササヅカ。
プロフィール
ファーストサマーウイカ
ファーストサマーウイカ|タレント、俳優。大阪府生まれ。2013年に「BiS」メンバーとしてデビュー。解散後、テレビドラマやバラエティ、映画などで活躍中。おもな出演作にドラマ『ファーストペンギン!』など。中田秀夫監督の映画『禁じられた遊び』が9月公開。2024年大河ドラマ『光る君へ』にも出演。
Twitter
https://twitter.com/FirstSummerUika
Instagram
https://www.instagram.com/f_s_uika/
関連記事
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.19/文・佐藤究
百人町スナイパー
2023年7月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.18/文・尹雄大
あの世を臨む聖護院
2023年3月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.17/文・福徳秀介
好きになれなかった三軒茶屋
2023年2月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.16/文・安藤なつ
ゴロゴロできる町
2023年1月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.15/文・松居大悟
大崎一番大悟
2022年12月8日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.14/文・小林私
愛は町に無い。
2022年11月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.13/語・井筒和幸
オレが撮らなかった町
2022年10月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.12/文・峯岸みなみ
誰も知らない高島平
2022年8月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.11/文・おいでやす小田
コリアンタウンの猫
2022年7月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.10/文・須藤蓮
ノマド的自主興行
2022年6月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.9/文・玉城ティナ
東京日記(ふりかえり)
2022年3月8日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.8/文・崎山蒼志
風の迷路となるまちで
2022年2月5日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.7/文・片桐はいり
東京すみっコぐらし
2022年1月8日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.6/文・新川帆立
摩天楼とジーンズ
2021年12月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.5/文・角幡唯介
鎌倉のチベット
2021年11月6日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.4/文・xiangyu
横浜のチベット
2021年10月2日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.3/文・Phum Viphurit
Hamilton
2021年9月4日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.2/文・板倉俊之
真のシロガネーゼ
2021年8月7日
ライフスタイル
僕が住む町の話。Vol.1/文・大前粟生
オッケー、鴨川
2021年7月3日
ピックアップ
PROMOTION
〈ハミルトン〉と映画のもっと深い話。
HAMILTON
2024年11月15日
PROMOTION
「Meta Connect 2024」で、Meta Quest 3Sを体験してきた!
2024年11月22日
PROMOTION
うん。確かにこれは着やすい〈TATRAS〉だ。
TATRAS
2024年11月12日
PROMOTION
〈バレンシアガ〉と〈アンダーアーマー〉、増幅するイマジネーション。
BALENCIAGA
2024年11月12日
PROMOTION
〈ティンバーランド〉の新作ブーツで、エスプレッソな冬のはじまり。
Timberland
2024年11月8日
PROMOTION
〈バーバリー〉のアウターに息づく、クラシカルな気品と軽やかさ。
BURBERRY
2024年11月12日
PROMOTION
〈ザ・ノース・フェイス〉のサーキュラーウールコレクション。
THE NORTH FACE
2024年10月25日
PROMOTION
人生を生き抜くヒントがある。北村一輝が選ぶ、”映画のおまかせ”。
TVer
2024年11月11日
PROMOTION
ホリデーシーズンを「大人レゴ」で組み立てよう。
レゴジャパン
2024年11月22日
PROMOTION
君たちは、〈Puma〉をどう着るか?
Puma
2024年10月25日
PROMOTION
介護がもっと身近になるケアギビングコラム。
介護の現場を知りたくて。Vol.3
2024年10月23日
PROMOTION
〈ナナミカ〉と迎えた、秋のはじまり。
2024年10月25日