LIFESTYLE

僕が住む町の話。Vol.9/文・玉城ティナ

東京日記(ふりかえり)

2022.03.08(Tue)

cover design: Eiko Sasaki
text & photo: Tina Tamashiro

まっさらな気分になれるから。そんなシンプルな理由だった。引っ越しても私自身は変わらないのに。部屋から部屋へ移動したり、休みの日には飛行機に乗って。頻繁に居場所を変えていないと落ち着かなかった。あまり正確な記憶は多くないのだけれど。

 私の知らない私、を誰かが引き出してくれると信じてじっと待っていた頃、出来るだけたくさんの人と、場所を、時間を、共有したがっていた気がする。

 沖縄県の浦添市という街で暮らし、(あの時間はとても素敵な時間だったけれど)本当に小さな世界しか持っていなかった私は、いきなり渋谷が遊び場の高校生になった。放課後映画館に通ったり、洋服を買ったり、好きな本屋に行ったり。カルチャーを吸収しようと、自分の血肉になるおもしろいものを探そうと、躍起になっていた。初めて見るものばかりで、自分のちっぽけさに心を痛めつつも、目移りするほどの情報の中から何かを掴もうとしてた。 

 上京して、一番初めに住んだ町は大崎。目黒にある高校に通っていたので、二駅!近いじゃん、と特に何もわからずに家を決めた。不思議な作りの家だった、マンションでもアパートでもない、メゾネット一軒家みたいな、細長いおうち。駅からもわりかし近かったように記憶している。制服を着て坂を下って、駅の方に向かうとき、春の風が私を包んで通り過ぎていった。一生懸命にストレートアイロンをかけた前髪が全部上がっておでこが丸出しになってキレそうになって、思春期丸出し。それも今だと、新生活が始まるウキウキと、桜の花びらと、香水と、ナチュラルメイク。全部上手くいくんじゃないかと期待していた私はかわいらしかったな、と思う。そこから何回か引っ越した。少しづつ合う街も、家の条件も変わって、大人のサインもいらなくなった。

 そうして、自分に助けを求めた方が意外と早いよ。と自分に声をかける事のできる今、このエリアには五年くらい住んでいるだろうか。家はちょっと変わったりしたけど、大体同じ区域。空港も、品川駅もまあまあ近いし、移動もしやすくて、なんだかんだ住みやすい。引っ越しに対してあまり魅力を感じなくなったのも大きい。当たり前だけれど、引っ越しをしなくても自分を変える事はできる。

 沖縄の風景も、私を作ったものだし、東京にいなくても情報はたくさん溢れている。世界は変わりつつあって、どこに住んでもいいなんていい時代になるなあ、なるといいな。

 朝起きたてに、ベッドで『家、最高だなー』と叫ぶくらいには家が好き。外へ出かけるのも好きだけれど、仕事が終わって帰ってきたときに、ドアを開けて、ここにあるもの全部、働いて自分で買ったものだ、選んだものだ、と思うと愛おしさが爆発する。柄にもなく、頑張ってるじゃん、とか言いたくなってしまう。

 おうちのトーンは水色と、ベージュと、グレー。アートを集めたり、家具をオーダーしたり、少しづつ城を充実させている途中だ。

 家の近くで事足りてしまう事も多いけれど、これから暖かくなると玉城も外に出たくなる。ひとりでお洒落なカフェには入れない性格なので、大体、町に根付いているような、こじんまりとした喫茶店に行く。本を読んだり、執筆する仕事があったりするとそれを進めたり。この文章を書いている時もそうで、小腹が空いたのでカレーライスを頼んだ。はい、どうぞと置かれたカレーは実家顔負けのビッグサイズで、嬉しくなってマスクの中で笑みが溢れた。食べ進めてるとこんな会話が聞こえてきた。

『生きるって難しいのよ』

『え? きる?』『生きる。難しいけど、生きなきゃいけないのよ。思わないとやっていけないのよ』じゃがいもを口の中いっぱいに詰めながら、そう、生きていくと決めて、生きなきゃいけないよなあ、東京でまだまだ頑張ろう。なんて、気持ちになりました。これからも、この街で生きていきます。

プロフィール

玉城ティナ

たましろ・てぃな|俳優。1997年、沖縄県生まれ。中学2年生の時スカウトされ、「ミスiD2013」で初代グランプリに輝き、14歳で講談社『ViVi』の最年少専属モデルとなる。

2014年、TBSドラマneo『ダークシステム恋の王座決定戦』(犬童一心監督)のヒロインで女優デビュー。ニッポン放送『玉城ティナとある世界』、テレ東ドラマ25『鉄オタ道子、2万キロ』好評オンエア中。4月にはWOWOW『アクターズショートフィルム2』で脚本・監督したショートフィルム『物語』、蜷川実花監督『xxxHOLiC』が公開予定。

Instagram
https://www.instagram.com/tinapouty/
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