ライフスタイル

家の猫の話 Vol.33/文・ピエール瀧

2026年11月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

気づけば我が家のリビングに20年くらいあって、いつの間にか使用頻度が猫9:人間1になってしまっている家具、それはIKEAのポエングチェアー。

ポエングチェアーとは、今の家に住み始めた頃、我々霊長類が快適に寝そべりながらテレビジョンを眺めてバカ笑いをするために、当時オープンしたばかりの港北IKEAまで出向いて購入し、自力でせっせと組み立てた簡易ロッキングチェアーのような椅子のことです。

最初のうちは、当初の目論見通りユラユラしながらお笑い番組を観たり、コントローラーを握りしめてモンハンを一晩中やったりしていたのですが、いつの頃からか、座面の獲得競争で猫に先を越されるようになってしまいました。気がつくとすでにヤツらが乗っかっていて、しかも全力で寛いでいる(もしくは熟睡している)ようになったのです。

こうなってくると我々はおいそれとは手を出すことが出来ず、さらに「カワイイから許す」という初動対応の未熟さも積み重なり、時が経つにつれ、自然と猫ファーストの安寧の場所に変化していってしまったのです。しまいには「夜はここで寝ることにしましたんでね」なんつって、毎晩寄り添って熟睡する始末。安心度100%の寝息までたてて。カワイイから許すけど。

この現状に業を煮やした我々霊長類ですが、“我々の”ポエングチェアー奪還のために何も手を打たなかったわけではありません。再度IKEAに出向いて子供用の小さいポエングチェアを新たに購入してきて、「こっちが猫用ね」と設置もしてみたのですが、衝撃なことにヤツらはそっちの陣地には全く興味を示さず、これまで通り“我々の”ポエングチェアーの上に当たり前に居座り続けるのでした。

そうこうしているうちに、座面は猫の毛まみれになり、角やサイドの部分は爪研ぎのおかげでボロボロになり、カラフルでポップだったファブリックにはゲロ跡のシミが複数箇所見受けられるようになってしまいました。しかしここからがポエングチェアーの侮れないところ。

なんとポエングチェアーは座面だけ別売りで買い替えることが可能なのです。おそらく今の座面はおよそ6代目くらいのヤツでしょう。最初のうちはちゃんとデザインや色重視で買い替えていたのですが、最近では「どうせゲロ吐くからシミが目立たないやつ」とか「抜け毛の処理がしやすそうな素材」で選ぶようになってきました。完全に本末転倒状態、しかもそれを20年!

即応性のある座面の高さ、背もたれの絶妙な凹みと角度、両肘掛けによるガード感と視認性、オットマンという前線基地の汎用性がもたらす、猫たちの快適要塞と化した我が家のポエングチェアー。椅子としては結構大きめの部類なのでなんとかしたい気持ちもあるにはあるのですが、猫たちのことを考えると、まだまだ売り場に新たな座面を買いに出かける日々が続きそうです。

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』『ガス人間』(Netflix)、映画『宝島』(大友啓史監督)映画『ホウセンカ』(木下麦監督)のほか多数出演。映画『NEW GROUP』(下津優太監督)公開中。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/