カルチャー
cero高城晶平は、『フルートベール駅で』の何でもないシーンを、今もときどき思い出す。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.13
2026年3月18日
illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回のゲストは、ceroの高城晶平さん。紹介してくれたのは、『罪人たち』の記憶も新しいライアン・クーグラー監督の長編デビュー作『フルートベール駅で』だ。
今日の映画
フルートベール駅で(ライアン・クーグラー監督・脚本、2013年)
2009年1月1日未明、フルートベール駅で黒人青年オスカー・グラントが白人警官によって射殺された。この実際の事件をもとに、彼が死に至るまでの”普通の1日”が描かれる。監督は、『ブラックパンサー』や『罪人たち』で知られるライアン・クーグラー。
初めて観たときから「これは生涯ベストの一本だ」と感激したわけでも、その後に観直したわけでもないのに、今でも日常生活の中でふとワンシーンを思い出すような、脳の不思議な場所に位置付けられちゃって記憶から消えない映画が、僕には何本かあるんです。『フルートベール駅で』は、そのひとつ。
出合いは公開時でした。その日、たまたま新宿で暇になって、何か映画でも観るかと当時よく通っていた新宿武蔵野館に足を運んでみると、ちょうど都合のいい時間にやっていたのが『フルートベール駅で』でした。つまり、何の予備知識もない状態で座席に着いたんです。白人警官が無実の黒人青年を銃殺するという、カリフォルニア州で実際に起きた事件が下敷きになった作品だというのも、上映前にチラシを読んで知ったくらいです。
だから、重々しいんだろうなと背筋を伸ばしたんですが、始まってみるとまったくそんなことはない。むしろ、なんでもない兄ちゃんみたいな主人公が、銃殺されるに至るまでの1日を、説明的なところもなく、淡々と描かれていました。当時は、ブラック・ライヴズ・マター運動が加熱する少し前だったので、そのことについて深く考えることもないまま、ただ「不思議な感触の映画だったな」と思って、映画館を後にした記憶があります。
そして今、僕の頭の中にときどき去来するのも、その何でもない日常を描いたシーンなんです。スーパーマーケットで黒人の恋人のために南部風のフィッシュフライを作ってあげたいけど、どの魚を買えばいいかわからないと悩む白人女性のために、その場でおばあちゃんに電話して聞いてあげる主人公の姿とか、主人公が車の運転中に母親と話すために、ニットキャップに携帯電話をはさむ仕草とか……。なんで、携帯のシーンばっかりなんだろう(笑)。その後のストーリーに直接関係するわけでも、劇的なわけでもないそういうシーンが、なぜか折にふれてフラッシュバックするんです。
それはもしかしたら、2015年に子供が生まれて以来、子育てが忙しくて全然映画館に行けてないことと関係があるのかもしれません。暇だというだけの理由で映画館に行き、何の事前情報もとっかかりもないまま作品と向き合えた。もうしばらくはできそうにない、そんな贅沢な時間の使い方ができたという個人的な思い出とセットで、この映画が忘れられないのかもしれません。
語ってくれた人
高城晶平
たかぎ・しょうへい|1985年、東京都生まれ。バンドceroでボーカル、ギター、フルートを担当する他、2019年よりソロプロジェクト、Shohei Takagi Parallela Botanicaを始動。ceroとして、全国10都市を巡るワンマンツアー TOUR 2026 “Compartment”が、6月13日の福岡公演からスタートする。
Instagram
https://www.instagram.com/takagikuns/
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