ライフスタイル

家の猫の話 Vol.16/文・ピエール瀧

2025年6月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

コンブが亡くなりました。

最後の方は日に日に容体が悪くなっていき、遂には自分で起き上がることもできなくなってしまいました。家族の皆で頭を撫でたり、添い寝をしたり、体をさすったりして励ましていましたが、実際は少しずつ“覚悟”を受け入れていく日々だったのかもしれません。最後は、動物病院の先生が家のリビングに設置してくれた機械で点滴を受けながら、シリンジで与えたちゅ~るをなんとか飲み込んだコンブでしたが、横たわってしばらくした後に身体を撫でてみると、もう息をしていませんでした。

動物病院の先生にペットの火葬と葬儀ができるお寺を紹介してもらい、翌々日の葬儀の予約を済ませると、我が家のリビングでコンブの祭壇作りが始まりました。

「コンブが一番好きだった物なんだろ?」
「扇風機!」
「うむ。そうだな」

ということで、納戸から一足早く扇風機を引っ張り出してきてコンブの頭を乗せてあげ、娘が学校の授業で作った猫の石像を傍に添え、自分がスマホの待ち受けにしていたお気に入りの写真をコンビニでプリントして遺影にし、買ってからすっかり忘れていたアロマキャンドルを灯してみると、家族全員納得の“なかなかにファンキーな”祭壇が出来上がりました。これでよし。

翌々日、白い花束とカリカリを抱っこしたコンブはお坊さんにお経をあげてもらい、雨の中、静かに空へと昇っていきました。享年18歳。ありがとうな、コンブ。

このコンブの最終章で我が家がてんやわんやの状態だった期間、興味深いことに、残りの2匹のブイヨンとコロッケもいつもと違う反応を見せていました。

家族全員の気持ちが一斉にコンブに向かっているのを感じ取っていたのか、末猫のコロッケは拗ねたような、ちょっと寂しげな態度を見せ、病床のコンブの近くにほとんど近寄ってきませんでした。遠巻きにちょっと怖がりながら眺めてる感じ。猫なりに「これはヤバい状況だ」ってことはわかっているけど、何もできないからただ見てる感じ。

ブイヨンも基本的にはコロッケと同じ反応を見せていました。あんなに毎晩コンブとくっついて寝ていたのに、いつの間にか遠くから静かに見届ける態度。それが動物界の礼儀と掟のように。

コンブが息を引き取った日、実はブイヨンが朝から姿を見せなくなっていました。家の中を探してみると、普段はあまり寄り付かない上の階の廊下にある洗面所の下の奥に潜り込んでいました。実はここはブイヨンが逃げ込む彼女用のシェルターのような場所なんですが、ここ何年も近寄っていなかった場所です。

ブイヨンは死神を見たのかもしれない、だから隠れたのかも。なんだかそんな気もします。でも同じ種族にしか伝わらない、別れのバイブスのようなものを感じ取ったが故の行動なのかもしれないとも思っています。コンブが逝ってしまってからブイヨンは、時折リビングで鳴き声をあげるようになりました。「コンブを探しているのかな」と思いながら抱き寄せ、お腹を撫でてあげながら悲しみを分け合っています。

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』(Netflix)、『HEART ATTACK』(FOD)など出演も多数。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/