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書くこと/文・上白石萌歌

ひとりがたり Vol.20

2025年4月30日

ひとりがたり


photo & text: Moka Kamishiraishi
illustration: Jun Ando

「あのねモカオさん、文章を書くっていうのは、知力じゃなくて体力なのよ」

ある時、親愛なるリリー・フランキーさんがぽつりとこぼした言葉が、なんだかものすごく胸に残っている。多い時で月に100本もの連載を抱えていたという、超絶鬼モノカキスト(たった今この瞬間ノリだけで名付けた)なリリーさんにしか放つことのできない、はっとするような説得力を持つ言葉。

確かにそうなのかもしれない。昨年夏にこのエッセイ連載をスタートさせてから、気がつくともう1年近くになる。自分ひとりで考えたこと、感じたこと、体験したことを自由につらつらと綴る、“ひとりがたり“。エッセイなるものにはじめて向き合ってみているが、心の中にあるものを外へと引っ張り出して書き起こすという行為は、とてつもなく楽しいものであり、同時に気力も体力も要する修業のようだとも感じる。

いつもとりわけ悩んでしまうのは、冒頭の書き出し部分である。真っ白なだだっ広いドキュメント画面の中で、ひとり立ち尽くすわたし。どんな言葉からはじめようか、どんな場所へたどり着かせようか。そんなことをごにゃごにゃと考えているうちにカーソルは点滅を何度も繰り返し、ドキュメント画面に立ち尽くすわたしの影はますます濃くなってゆくばかり。
PCとの睨めっこに耐えられなくなり、そのままぐうう、と貝のように丸くちぢまってソファと机の間で30分ほどフリーズしてしまうこともしばしばある。もっとラフに呑気にものを綴ることができたらよいのだけれど、わたしの性格上、はじめの一歩に慎重になりすぎてしまうのだ。

こんな時に浮かぶのがリリーさんの言葉。ここでめげてはいけない。そう言い聞かせることで、目のまわるようなハードな夜でも、なんとか自分なりに自分の言葉で文章を綴ることができてきた。

文章を書くということは、自分というものに鏡を立てかけて、見つめるようなことなのかもしれない。いまの自分がどんな状態なのか、日々の手触りはどんなふうか、過去や未来をどんな眼差しで見つめているのか。

感覚を研ぎ澄ませ、文章のなかで自分の見たい光景を必死に想像する。鏡の前で何度も服を脱いでは着るを繰り返すように、ああでもないこうでもないと言葉を着替えながら、ぐるりとまわって見てみたり、近づいてみたり離れてみたり。じっくりと時間をかけて心のなかと向き合うことで、自分の紡ぎたい世界、言葉の流れてゆきたい場所がわかってくるような気がする。

演じることとも歌を歌うこととも異なる、文章を書くというたのしい修業。ルールも制限も土台も道しるべもない、どこまでも自由なおそろしさ、おもしろさがあると感じる。悩みながらも紡いでいった文字たちが、いつか自分だけの道となるといいな。

“知力より体力”。この言葉は、いつもものを書く上で臆病になりすぎてしまうわたしの心をやさしく解きほぐし、一歩踏み出すための勇気をくれる。
リリーさんのような超絶鬼モノカキストには到底程遠いが、日々生まれ続けるさまざまな感情を全身でキャッチして、言葉にしてゆくことができたら。

ということでみなさま、これからもわたくしのエッセイ ”ひとりがたり”をよろしくおねがいします!

ひとこと
このまえ、親友が美味しいニラキムチができた!と家にわざわざ届けにきてくれました。お返しに自家製ラタトゥイユを差し上げて、しあわせ交換となりました(平和)。

上白石的テーマソング:Clairo「Amoeba」

プロフィール

書くこと/文・上白石萌歌

上白石萌歌

かみしらいし・もか|2000年生まれ。鹿児島県出身。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリを受賞。12歳でドラマ『分身』(12/WOWOW)にて俳優デビュー。ミュージカル『赤毛のアン』(16)では最年少で主人公を演じた。映画『羊と鋼の森』(18/東宝)で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作にドラマ『義母と娘のブルース』(18/TBS)、『教場Ⅱ』(21/フジテレビ)、『警視庁アウトサイダー』(23/テレビ朝日)、『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と』(23/TBS)、『パリピ孔明』(23/フジテレビ)、『滅相も無い』(24/MBS)など。映画『366日』が大ヒット公開中。 映画『パリピ孔明 THE MOVIE』が4月25日に全国公開。adieu名義で歌手活動も行う。

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