ライフスタイル
[#4] Go with the 風呂〜/ゆうじんの湯
2021年6月2日
text: Yumiko Ohchi
logo design: my ceramics(FF)
edit: Yu Kokubu
2021年3月21日。俗に言う「宇宙元旦」の翌日、『Go with the 風呂〜』のタイトルロゴを作ってくれた宇宙一の天才アーティスト家族である藤村ファミリーと広島県のとある島のとあるお風呂に入りに行ったのですが、、ん、まぁ、あの、その、なんつーか、ね、、要はどういうわけかそのお風呂全然あったまってなくてぶっちゃけめっちゃ寒かったんですわ。おまけに私たちが泊まったお宿がチェックイン直前にタッチの差でボイラーがぶっ壊れて、お宿の売りである海水風呂に入れないというアクシデントも発生。はは〜ん、これは神が「お前の目指す風呂はここではない!」と大声で主張しているな、とすばやく理解。
まぁ私けっこう出来る子なんで、そんなこともあろうかと第六感でキャッチしてて事前に他のお風呂も調べてたんですわ。そんで引っかかってたのが山奥にある温泉の「ゆうじんの湯」ってとこ。そこは何やらラジウムの含有量がハンパなくてヤバいってことらしいんだけど、別に私は泉質マニアじゃないし、ありがたいことにリウマチとかもないんでラジウム含有量についてはそんなに食いつかなかったんだけど、私の琴線をビンビンに触れさせたのは休憩所のこたつとラーメンの写真。
銭湯やスパ施設に飲食スペースがあってお風呂上がりに畳でだらだらしながらご飯を食べれるところはごまんとある。そんなところで欲深い私がいつも思うのは「これがこたつだったら最高なんだけどなー」ってこと。こたつ。それは日本が産んだぬくもり溢れる世紀の逸品。こたつのない家で育った私のこたつに対する憧れと執着はハンパない。
ま、お風呂上がりに食べるラーメンの美味さについてはここで私が言及するのは野暮ってもんでしょう。みんなもう知ってるよね。
んで、ここの温泉では、なんと向かいにある中華料理屋が出前をしてくれてお風呂上がりに休憩所のこたつでラーメンが食べれるという、、、本来ならば上級国民のみ、もしくはそうとう前世で功徳を積んだ者のみが味わえる悦楽を一般人でも体験させてくれて束の間の夢を見させてくれるところらしい。行かない理由はどこを探しても見つからない。
鞆の浦から藤村ファミリーの車でゆうじんの湯へと向かった。のどかな田舎の山道をくねくねと行った先に大量の薪が積んである建物が秘湯感をムンムン匂わせながら存在していた。いい予感。でも周りは山と川しかない。こんなところに果たして中華料理屋があるのか?と思いきや、あった。トタン屋根のおんぼろプレハブ小屋に「中華あらかわ」の看板。山奥にポツンと佇むこの風情。私の中のつげ義春が泣いた。しかもハンドメイド感あふれるオープンテラス席はよく見たら「バス待合所」と書かれている。いい。とにかくいいってことしかわからない。正直この中華だけでもうすでに優勝。でも落ち着いてよく見ると外にでっかく「準備中」の看板が…。カーテンはピシャリと閉じているし人気もない。「まさか、ね」と不穏な空気を振り払い、向かいのゆうじんの湯へ。
受付のお父さんに入湯料を払いつつ「あの、向かいの中華料理屋さんって…」と口を開くや否や「あー!ちょうどさっき帰りよったわ!」とバッサリ。私たちが着いたのは2時過ぎ。こんな山奥で気まぐれに昼の数時間しかやっていない。なんだよそのめちゃくちゃ高いハードル。ふーん、いい根性してんじゃん、と私のハートに火をつけたのは言うまでもない。いつかぜってーに食ってやる。しかも後でお風呂の中で常連さんから仕入れた裏情報によると、この中華あらかわのシェフは昔は有名店で腕をふるっていたとかでめちゃくちゃ美味しいらしい。さらにプレハブ小屋は調理場のみで飲食スペースはオープンテラスのバス待合所 or ゆうじんの湯の休憩所のみ、とのことでゆうじんの湯と中華あらかわの持ちつ持たれつの程よい距離感に心打たれホロリ。
湯上りにこたつでラーメンの夢が無残にも木っ端微塵に打ち砕かれたが、温泉がいい温泉なら文句は言うまい。正式には原田温泉というこのラジウム鉱泉のラドン含有量が示された看板が入り口脇に無造作に転がっていてそこに書かれた「187.00マツヘ」という含有量の「マツヘ」という初めて見る単位がよくわからないが、他のラジウム鉱泉と比べたらとにかくめちゃくちゃラドンを含んでいるということだけはわかった。鉱泉なので無色透明で源泉は冷たい。脱衣所含め浴室は比較的新しいのか清潔感あって綺麗。熱めの内湯ひとつと少しぬるめの露天風呂、そして源泉掛け流しの小さな水風呂。いやこの水風呂がいいのなんの。露天風呂で常連のお姉さまたちとすっかり意気投合しておしゃべりしてたらだんだんのぼせてくるわけですよ。そしたら「ちょっと失礼」っつって、タイルで可愛くデコってあるお一人様用の水風呂にザブン!しかもザバサバと躊躇なく注がれている鉱泉は飲んでも身体にいいらしいので水風呂に入りながら注ぎ口から豪快にグビグビ飲む。そして露天にあるベンチに腰掛け一休み。そよ風が私の身体を愛撫する。こんなんめちゃくちゃ気持ちいいじゃん。ラーメン無くても優勝ですわ、これ。
おまけにお風呂上がりはこたつ4基とテーブル席も完備の広い休憩所でだらだらごろごろ。お父さん曰くここは飲食物持ち込みOKなので、一日中ここで温泉と食っちゃ寝の無限ループも可能とのこと。こたつ部屋にはさりげなく枕も置いてあった。ぬぬ、これは完全に寝かしつけにかかってきておるな。というのも、ここは療養目的の湯治場として営業しているので、ある意味温泉と食っちゃ寝の無限ループが推奨されているようなもの。ここでは「療養」という名目でオフィシャルに堂々とダメ人間になれる。
一体誰がどんな魂胆でこんな最高な施設を作ったんだ?と興味が湧き、受付にいらしたお父さんにお風呂上がりに突撃インタビューを敢行した。ぶっちゃけ実はもう最初に受付でちょっと話をした際に「あ、なんかこの人面白そう」って私のアンテナに引っかかっていたんだよね。なかなかキャラの立ったお父さん。
「ちょっとお話聞かせてください」って言ったらボイラーのあるお仕事部屋に快く招き入れてくれて「刺身レモン」(生レモンにお醤油をつけて頂くというかなり乙な一品!美味しかったです)なるものまでふるまってくれた。
お父さんのお名前は松岡久さん。福山出身で若い頃から各地を転々として東京でレストランのボーイとして働いたり食堂を経営したり、はたまたネパールやマッターホルン、モンブランなどの山に登ったりソルトレイクやアラスカにまで行っちゃう旅人だったり、乗鞍岳でロッジを経営していたり、いろんなことをしてきて57歳でこのゆうじんの湯の経営を始めて今年で20年目なんだとか。さらに今、愛媛にゲストハウスを建設中とのことで、なかなかのやり手。しかも向かいの中華あらかわの奥ではヤギやニワトリを飼っていて、雑草を食べるヤギは草刈り機代わりに畑に貸し出すビジネスをやってみたり(でも逃げちゃったりしてうまくいかなかったそう)、ニワトリの卵を受付で販売していたり、とビジネスマインドが源泉掛け流しドバドバ状態だ。私も東京のレストランにレモンを卸す仕事をやらないかと話をもちかけられ、あやうくヘッドハンティングされるとこでしたわ。
そんな面白いお父さんのいるゆうじんの湯、もちろん温泉だけでも最高なんだけど行く時は向かいの中華の営業を確認してから行った方がいいですよー。私もいつかぜったいにリベンジしてやるから待ってろよ!
インフォメーション
原田町 ゆうじんの湯
tel : 0848-38-0488
定休日:火曜、水曜
※行かれる際は事前に営業の確認をされることをお勧め致します。
プロフィール
大智由実子
https://www.instagram.com/yumiko_ohchi/
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