ライフスタイル

Go with the 風呂〜 vol.2/ポリネシヤ風呂

2021年5月19日

text: Yumiko Ohchi
logo design & movie edit: my ceramics(FF)
edit: Yu Kokubu

Go with the 風呂のロゴマーク

 もう何年も前のことだからどこで聞き知ったか忘れたけど、南伊豆に「ポリネシヤ風呂」という手作りのお風呂があるということを知った。「ポリネシヤ」と聞いて、なんとなく南国のあったかい楽園みたいなイメージがぽわわんと浮かぶ。でもハッキリとした正解がわからない。そこにさらに南国のイメージとはなんら関係もなさそうな「風呂」という言葉がついて「ポリネシヤ風呂」となると「!?」となり、脳は大混乱を起こす。たぶんググればそれがなんなのか答えが見つかるかもしれないけど、なんでもかんでもGoogle先生に頼ってばかりいたら何かとても大切なものを失ってしまうような気がした。手っ取り早くスッキリしたくて死ぬほどググりたい気持ちをグッとこらえ、その答えを探しに南伊豆は下賀茂へと向かった。

南伊豆の風景
「のどか」という言葉の発祥地は多分ここではないかと思わずにはいられない風景。

 3月中旬の南伊豆はぽかぽかと暖かく、東京はまだ肌寒くて桜もこれからようやく本領発揮というのにこちらの桜はとっくに一仕事終えて葉桜になっていた。あちこちに咲くビビッドな黄色の菜の花の大群がのどかな風景にアクセントをきかせてアピってるし、おまけにほうぼうで温泉が湧いている。「はー、春の下田は最高かよ。そらペリーも黒船乗って押しかけますわな」とボヤきながら下田駅から目的のポリネシヤ風呂を運営している民宿の福屋さんへと向かった。最寄りのバス停で降りてGoogleマップの指し示す場所(ここは先生に甘えました)に着いたんだけど、福屋さんの看板は見当たらない。指し示す場所には代わりに「おっけぃ」と書かれている。なにが「おっけぃ」なのかわからないけど多分「入浴OK」という意味なのかと思い、勇気を出して半開きのドアから「ごめんくださーい!」と声をかけた。「はーい」と出てきてくださった女性に「あの、ポリネシヤ風呂に入りにきたんですけど…」と伝えたら「こちらからどうぞ」と快く案内してくださった。無事ポリネシヤ風呂に入れることがわかって一安心したんだけど、どうみても民宿では無さそうな建物内部の風景に若干戸惑う。どうやらここは今は「おっけぃ」という障害者や高齢者の方向けのデイサービス施設となっているようだ。その女性に少しお話を聞いたところ、もともとポリネシヤ風呂を運営していた福屋さんは2年前に民宿を辞め建物も取り壊しが決まっていたそうだが、そこにちょうど場所を探していたNPO法人の風楽(ふうら)さんが入り、昨年からポリネシヤ風呂を含めた建物を引継ぎ、デイサービスとして運営・管理されているとのことで、外来の方も入浴料を払えばポリネシヤ風呂のみの利用もOKとのこと。

ポリネシア風呂の入り口
入るのに若干勇気を試されるポリネシヤ風呂の入り口。

 私が訪れた平日の昼下がりは他にお風呂の利用客がいなかったので、ラッキーなことに男湯・女湯・家族風呂を案内して頂けることに。大きな温室の中に3つのお風呂があって、巨大迷路のような作りに入り口からもうテンションブチ上がり。しかも温室の中にはトロピカル気分を爆上げしてくれるフーシャピンクの花が咲き乱れるブーゲンビリアの木の他にもマンゴー、パパイヤ、バナナ、ブドウの木がワサワサと生い茂っている。入浴料400円ぽっちでこんな美しい楽園の中でお風呂に入れる。しかもいちお言っとくけど温泉だよ、温泉。さらにフレッシュな源泉掛け流しだよ?ねぇホント大丈夫??これ合法???(※今のところ合法みたいです)

 これらの熱帯植物たちは福屋さんのご主人・渡辺守男さんが40年ほど手塩にかけて立派に育て上げた愛しい子たちで、今も近くに住む守男さんの指導の元管理されているそう。ポリネシヤ風呂自体はそうとう昔からあるそうなのでけっこう年季が入っているかと思いきや、昨年引き継いだ際に床などを若干リニューアルしたのと「おっけぃ」の方が毎日お掃除をしているとのことでとっても綺麗で清潔感あふれている。いやほんと感謝しかないです。400円じゃなく4万円払いたい気分です(残念ながら持ち合わせておらず400円払いました)。

ポリネシア風呂、男湯の様子
ものすごい姿勢で身体を張って表現しているブーゲンビリアのある男湯。
ポリネシア風呂、小便小僧が
ポイントの家族風呂
小便小僧がチャームポイントの家族風呂。
ポリネシア風呂の脱衣所
でもって脱衣所がコレだもんなぁ…ふぅ。

 のっけからドーパミン大放出で汗ビッチョリになってしまったので早速お風呂に入らせてもらうことに。ワクワクしながらマンゴーの木の下で服を脱ぎ、女湯のドアを開けるとそこには湯船につきそうなほどたわわに垂れ下がったブーゲンビリアの花が目に飛び込んできた。おいおいなんだこれ。絵に描いたような楽園じゃないか。この楽園を独り占めできるなんて、いったい前世でどんだけ功徳積んだんだ?

 景気良くジャンジャン掛け流されてる温泉の湯温は季節によって変わるみたいだけど、私が行った時は少し熱めだった。うっかりキスしちゃいそうな至近距離で花を眺めてうっとりとお湯に浸かっているとすぐに汗が吹き出す。湯船から出て椅子に座り休憩してまた湯船に入り花を愛でる…なんかこんな美しい場所を独占しちゃって世界のみなさんごめんなさいって土下座したい気分だよもう…。

ポリネシア風呂、女湯の様子
私が行った時の女湯の湯船からの視界はコレでした。

 私の中のポリネシヤ、南伊豆にあり。「ポリネシヤってどんなところ?」の答え全部ここにあった。実際のポリネシヤがどんなところだか知らんが、私の中での正解は誰が何と言おうとこのポリネシヤ風呂だ。こーやってマイ・ウィキペディアを編んでいくんだよ、人生ってのは。ググってどこかの誰かが出した答えを見て「なるほどね」ってわかったつもりになる人生なんて「生きてて楽しい?」って感じ。実際に行って見て裸で体験して初めて理解できるんだよ、世界ってのは。

 ちなみにブーゲンビリアは一年中花を咲かせているそうだし、季節によってマンゴーやパパイヤも花を咲かせたり実がなったりするそうで、一年中楽しめるそう。

 あと私が行ったのは天気の良い昼間で木漏れ日がキラキラと水面に映りそれはそれは美しかったのですが、夜は夜でライトアップされた植物と星空がこれまた綺麗みたいなんで、つまりはサイアク年中昼夜いつ行ってもサイコーだよ、ってことだね。

※浴室及び脱衣所の撮影は許可を得ております。

インフォメーション

ポリネシヤ風呂

◎静岡県賀茂郡南伊豆町下賀茂462-10

プロフィール

大智由実子

2012年よりMARGINAL PRESS名義で洋書のディストリビューションを行ってきたが2017年に活動休止し、世界中の様々なサウナを旅する。サウナライターとして花椿webにて『世界サウナ紀行』を執筆する他、サウナ施設の広報も務めるなど、サウナまみれの日々を送る。のちにサウナのみならず銭湯や温泉などお風呂カルチャー全般に視点が広がり、個性強めなお風呂を探究して現在に至る。お風呂以外の趣味は昭和の純喫茶とおんぼろ大衆食堂を巡ること。

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