ライフスタイル

【#4】水ようかんのような人

執筆: 水野しず

2021年12月30日

illustration & text: Shizu Mizuno
edit: Yukako Kazuno

 姉が結婚をした時は、どうしてこんな、ホームセンターで売っている大容量の水ようか んのような、単調で、量産品で、味わい深くなく本質を伴っておらず、どこか単調で薄味の男性と入籍するのかと首を傾げた。姉は私とは比べ物にならないほどモテた。優しくて、 穏やかでユーモアもあり、常に周りをよく見ている。控えめで冷静だ。容姿も人目を引く。 姉は、成人するまでの私をこの世で一番いい扱いをしてくれた人だった。

 水ようかんの男は、1000円カットではむしろこうはならないであろう、むしろ2300円程度でカットしたと思われるパイナップルのような、いかにも鳥の唐揚げと缶ビールが好 きそうな印象の髪型をしていた。大仏のような穏やかな顔立ちで、はっきりとした印象はない。新郎の友人は私とは話が合わない苦手なタイプの人ばかりであって、具体的には二 次会に向かう途中でW杯予選大会の話をしている人の集まりのような感じだった。そういう人々は、私のやることなすこと全てにリアクションを示さないが、強い好機の目を向けてくる。結婚式はなんだか洒落た京都の和風建築の建物でとり行われた。その中で、私の一族だけが耐え難い永らくの怨恨を背負っているように感じた。「イエ」って恐い。
結婚式の当日はそのようにしてなにもかも、姉が人生で最も美しい様相で目前に現れてとても嬉しかったこと以外は、不満足に終了したが、その後水ようかんの良さを把握した。 姉が出産した直後に会いに行った際、我々の両親はフィーバーのあまり姉に大迷惑をかけ、 病室に居座り、看護師を禅問答で問い詰めるなどの通常ありえない、信じられないフィー バーを繰り広げていた。姉はこのような毎度のフィーバーに呆れながらも慣れきっていた。正直気の毒であった。そういった最中に姉の夫の両親が見舞いに訪れたが、2分ほどごく簡単な挨拶をして、感じの良い手土産を置いて、すぐに去って行った。

「常識的な家庭」

 凡庸な水ようかんを、私はごく散々にこき下ろしたが、ホームセンターに置かれるほどの水ようかんって実際すごいのだった。こだわり抜いた老舗の本格的な水ようかんの背景には無数のとても言葉に表せないような諸々の艱難辛苦があるのかもしれないがホームセ ンターのようかんにはそういった非合理な苦痛はないだろう。姉の夫は、やはり何度接しても手応えを感じないが、いやな圧がなく、どう考えても日常を送るのに楽である。やはり、姉は冷静なのだ。

プロフィール

水野しず

みずの・しず | 1988年生まれ、岐阜県多治見市出身。コンセプトクリエイター、ポップ思想家。武蔵野美術大学映像学部中退。ミスiD2015グランプリ受賞後、独自性が高いイラストや文筆で注目を集める。新しいカルチャーマガジン『imaginary』編集長。著書「きんげんだもの」。