TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

【#2】「どうしても頑張り過ぎてしまう人」

2021.12.16(Thu)


illustration & text: Shizu Mizuno
edit: Yukako Kazuno

 ベストセラーになった新書のタイトルは、つい目を留めてジッと覗き込んでしまうものが多いです。少々話題になるくらいの新書だと、コンマ数秒意識を奪われるような注意喚起的タイトルが多い一方、すごく売れる新書のタイトルは、底知れぬ井戸を覗き込んでしまったような迫力を醸し出しています。先日も、『どうしても頑張れない人たち』というタイトルという名の「井戸」を覗き込んでしまいました。地底の奥深くへと無尽蔵に伸びていくと思われたそれは意外にも浅く、水面に私の顔が写り込んでおりました。曇天の空模様。これらは全て、いき過ぎた、過剰な認知の歪みであります。

 フリーランスで働いている殆ど全ての人にみられる病理かもしれません。本当は「どうしても頑張り過ぎてしまう人」なのに、自らを「どうしても頑張れない人」だと思い込んでいるのです。なんだこの不可解な現象は。しかし考えてみれば当然で、どうしても頑張り過ぎてしまう人でなければ淘汰が激しい自由業の世界を渡り歩いてゆけないという市場競争原理が背後にあるのでした。標準的なフリーランスの人物が二日連続で仕事を休み、どこかに出かけてリフレッシュなどをすると「休み過ぎてしまった……」と頭を抱え悩みます。一般的な正社員は常に週二日休んでいるという現実を忘れているのが自営業の常であります。

 『働きアリの中には常に3割の怠け者がいる』という新書はありませんが、これはよく知られた事実です。フリーランスという、自らの牙を進化させ過ぎて滅んだ古代獣「バビルサ」のように何もかもが過激なスタイルで生きる人々がいる反面、「どうしても頑張り過ぎてしまう」と思い込みながら働かないという「絵に描いた得」のような人々もまた、存在しています。一般的に会社内であまり働かない人といえば「窓際族」「斜陽族」という、アンニュイでナーバスな人種というイメージが強いのではないでしょうか。『美味しんぼ』の山岡のような雰囲気というか。ところが、現実の働かず者はそうではありません。彼らは白昼堂々ものすごく忙しい感じを出しながら、全然働いていないのです。考えてみれば、大企業の中で明らかに低出力で働いている人というのはそれはそれで有能な人材です。なぜなら、仕事の勘所を把握し、どの仕事を優先して行い、どれはやらなくてもいいか、ということをよく理解するだけの能力があるからです。周りにも迷惑をかけすぎないように計らっています。本物の働かず者は決してそうではありません。そういう方は、お立ち台の上でマイクパフォーマンスを繰り広げるDJのような「やってる感」の一人阿波踊りを最大限繰り広げながら、決して誰の役にも立たないという信念を貫くのです。

 私は以前「本物」を目撃しました。大学生の時です。3日間開催された学園祭も終わりかけで、私と友人は裏口から資材を搬出しようとしていました。すると、立ち入り禁止の立て看板の隣に指揮者の小澤征爾のような迫力で棒を振り回している警備の方がいらっしゃいました。警備の方は、立ち入り禁止の立て看板と立ち入り禁止の立て看板の狭間で、このように絶叫をしました。

「これより先へ、立ち入ることはできません!!」

 フリーランスで働いている読者の方、今週は二連休をとってみるのもいいかもしれません。

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