カルチャー

クリエイティブな思考に触れられる3冊。

11月はこんな本を読もうかな。

2026年11月1日

text: Keisuke Kagiwada

『アトランタ・ラップ 
ヒップホップ帝国を築いた音楽、人、都市、資本、暴力のすべて』
ジョー・コスカレリ(著)MEISO(訳)

 今や東西を凌ぐ勢いでUSラップの聖地として君臨する、南部のアトランタ。その道のりをニューヨーク・タイムズ紙の音楽記者が記録した一冊だ。表紙を飾るのはクエイヴォ。彼が率いるミーゴスのレコーディング風景をめぐる記述は、「私は2列目の座席に少しつまずき、すでに濡れてその日の水たまりの泥が点々と付いていたティンバーランドのブーツで、布地をふんだんに使ったテイクオフのファレル・ウィリアムスのアディダスをこすってしまい、猛烈な睨にらみを食らった」という、自分が取材者だったら死を覚悟するような細部の出来事まで綴られていて、ファンとしては涙なしには読めない。¥4,180/DU BOOKS

『あなたと映画と音楽と』
奥田英朗 (著)

「わたしは映画と音楽を愛してやまない人間である」と宣言する著者が、「好きな映画の話をして、それにちなんだオリジナル・サウンドトラック」を選曲する連載をまとめたDJ的エッセイだ。例えば、第一回では「ニューヨーク」をテーマに、『ティファニーで朝食を』とセットで、ジュリー・ロンドンの「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」(もちろん、映画の主題歌「ムーン・リバー」とひっかけてある)が紹介されたりする。まるで著者からミュージックバーで直接話を聞いているようなフレンドリーな文体が心地よい。

『イレナ・レイの消滅』
ジェニファー・クロフト(著) 越前敏弥、広瀬恭子(訳)

 題名にあるイリナ・レイとは、2026年にノーベル文学賞を受賞したポーランドの作家だという。しかし、つい先日発表されたように今年の実際の受賞者はカナダのアン・カーソンなので、イリナは架空の人物に他ならない。さて、このイレナ、新作を書き上げると各国翻訳者を自宅に集め合宿形式で翻訳をさせるらしい。しかし、その渦中でイレナは忽然と姿を消す。これだけ聞くと映画『9人の翻訳家』のようなミステリーを想起するかもしれないが、さにあらず。冒頭に「警告 翻訳家による注記」なる文章が置かれているように(これも架空)、これは実際の著者クロフト自身が翻訳者でもあるということも飲み込みつつ書かれた、ものすごく実験的なメタ(翻訳)文学だ。¥3,960/文藝春秋