カルチャー

永野は『稲村ジェーン』の主人公にかつての自分を重ね合わせた。

今日はこんな映画を観ようかな。vol.14

2026年3月30日

illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada

毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回のゲストは、芸人の永野さん。紹介してくれたのは、サザンオールスターズの桑田佳祐さんが監督した『稲村ジェーン』だ。


今日の映画
稲村ジェーン(桑田佳祐監督、1990年)

発売・販売:アミューズ
©アミューズ/JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント

舞台は1960年代の稲村ヶ崎。骨董屋で働くひろしを中心に、チンピラのカッチャン、ラテン・バンドのリーダーのマサシ、謎めいた女性の波子らの退屈だがかけがえのない日々が綴られる。監督の桑田佳祐は10曲以上の新曲を書き下ろし、主題歌「真夏の果実」、挿入歌「希望の轍」などの名曲を生み出した。


 正直に告白すると、『稲村ジェーン』を最初に観たときは、よくわからなかったんですよ。公開されたのは、高校生の頃だったのかなぁ。あのサザンオールスターズの桑田佳祐さんが遂に監督業に進出したってことで、すごく話題になったんですけど、ハリウッド的なわかりやすい映画しか知らなかった当時の自分には、「なんだこれ?」って感じでした。

 ただ、公開30年を記念してリリースされたDVDで観直したら、まったく違う映画になっていました。最初はやっぱり「これ面白いのかな?」って不安になるんですよ(笑)。だけど、観てるうちに、だんだん心地よさを感じ始めるというか。

 1960年代の稲村ヶ崎を舞台にして淡々と描かれるのは、骨董屋で働く加勢大周さん演じるヒロシの日常です。最近でいうと、NHKでやっていたドラマ『ひらやすみ』なんかに近いかもしれません。ただ、『ひらやすみ』の主人公と違うのは、ヒロシは何事に対してもまったくやる気が感じられず、すごく面倒くさそうなこと。一応、彼はサーフィンもやっているんですが、本気で打ち込んでいるわけでもありません。特別なことは何も起こらないし、ヒロシはただ流されるように生きている。そこに感動したんです。

 観直したタイミングも大きかったと思います。当時はラッセンネタのブームも終わり、「もうダメかな」ってくらい仕事がない時期でした。そんな中、明後日にやりたくない早朝ロケを控えたホテルで観て、思い出したんです。「俺、本当にヒロシみたいな人だったよな」って。上京したばかりの頃、よく地元の宮崎に帰って、自分も海岸とかで暇を潰していたんですよ。その頃の自分だったら、嫌な仕事なんてすぐやめてたはずなんです。本当にやる気がない人間でしたから。映画を観ながらそんな自分が肯定されているような気がして、すごく救われたんですよね。まぁ結局、その早朝ロケには行ったんですけど。収録中はずっと頭の中で映画の挿入歌「希望の轍」を流していました(笑)

 さらに付け加えると、質感や空気感、それから加勢大周さんが出ていることも含めて、撮影当時の1989年という時代が真空パックされていて、そこもいいんですよ。『稲村ジェーン』は、今の日本にないものが全てある、奇跡的な映画だと思いますね。

語ってくれた人

永野は『稲村ジェーン』の主人公にかつての自分を重ね合わせた。

永野

ながの|1974年、宮崎県生まれ。95年にピン芸人として活動開始。レギュラー出演中の『永野&くるまのひっかかりニーチェ』を書籍化した『永野&くるまの読むひっかかりニーチェ』が発売中。また、2025年には『MAD MASK』で映画監督デビューを果たした。4月から「永野映画CHANNEL(BS-TBS、毎週日曜22時~)」がスタートする。

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