カルチャー

現代映画の最前線に触れたい人に贈る3作。

11月はこんな映画を観ようかな。

2025年11月1日

『クリスマス・イブ・イン・ミラーズ・ポイント』
タイラー・タオルミーナ(監)

© 2024 Millers Point Film LLC. All rights reserved.

「オムネス・フィルムズ」って覚えている? 去年の本誌映画特集でめちゃくちゃ大きく取り上げた、アメリカの映画制作集団だ。その出世頭であるタイラー・タオルミーナ監督の最新作が、満を持して日本上陸。クリスマス・イブの夜に集まったバルサーノ家の面々が、世代を超えたり超えなかったりしながら繰り広げるあれこれ(当然のようにティーンエイジャーたちはパーティを抜け出し夜の街を彷徨う)を、ダグラス・サークのメロドラマとニコロデオン番組のバイブスを混ぜ合わせて描く群像劇だ。その一部始終を無言で傍観する警官コンビの1人を演じるのは、近年の動向がとにかく面白いマイケル・セラ。どことなく彼の出世作『スーパーバッド 童貞ウォーズ』に登場した警官コンビ(もちろん、この映画のときのセラはティーンエイジャー側だった)を彷彿とさせ、青春映画の精神が受け継がれていることに感動せざるをえない。11月7日からはタイラー・タオルミーナ監督特集、12月19日からは「オムネス・フィルムズ」特集もやるって! 11月21日より公開。

『旅人の必需品』
ホン・サンス(監)

©2024Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.

「月刊ホン・サンス」と銘打ち、今月から5ヶ月にわたって毎月新作が公開されるというホン・サンス。記念すべき1作目の主人公は、韓国で暮らすフランス人女性イリスだ。韓国人相手にフランス語を教えている彼女が、生徒や居候先の青年らと交わすいかにもホン・サンスらしい他愛もない会話を、劇中で奏でられる楽器の音を蝶番にして紡いでいく。興味深いのは、韓国語を解さないイリスが、韓国人たちとおしゃべりする際に英語を使うこと。要するに、旅人の必需品とは、英語のことなのだろう。しかし、街中の石碑を通して何度か言及される、日本で死んだという詩人が尹東柱だと知れば、もう少し深い何かを感じずにはいられない。尹東柱とは、日本の統治下時代の朝鮮半島で、独立運動に関与した容疑で太平洋戦争中に逮捕され、福岡刑務所で獄死した詩人なのだから。つまり、本作では一方で植民地主義によって殺された者の悲劇が、もう一方ではある種の汎世界的な”英語植民地”状態であるがゆえに繋がることができた者たちの喜劇が、語られているのかもしれない。11月1日より全国順次公開。

『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』
リム・カーワイ(監)

©cinemadrifters

 マレーシア出身の映画監督リム・カーワイは、大阪を拠点にしながら、世界を股にかけて映画を作る“シネマドリフター(映画流れ者)”だ。こちらは2024年に休業宣言した彼が、15年前に撮ったデビュー作のデジタルリマスター版。なのだが、戸惑うしかないほどの問題作だ。主人公のア・ジェは10年ぶりに故郷に帰還するが、なぜか家族もご近所さんも彼のことを覚えてない。しかし、実は覚えてないふりをしていただけだというレストランの店主が、この異常事態の鍵を握る男のところへ連れていくという。「なるほど、こっち系のミステリか」と観客が安堵したのも束の間、なぜかア・ジェは処刑されてしまった……のかと思いきや、タイトル画面を挟んだ次の場面では、 生きているア・ジェが例のレストランを訪れる。まるで条件の変わった別の世界線で、同じ時間を生き直すかのように。という禍々しい展開にもかかわらず、語り口は心地よさすら感じられるほど静か。なんなんだ、この映画は! 11月29日より全国順次公開。