ファッション

まだまだ知られていない日本のスモールブランドの話。/NAHYAT

2026年3月29日

僕の着倒れ東京案内。


photo: Ayumu Yoshida
text: Yoshikatsu Yamato
2026年4月 948号初出

西荻窪にあるアトリエの棚には編み地や生地の見本を保管。作業のための大きなテーブルについて手元で見たり、窓辺や中庭などさまざまな光環境でサンプルの表情に目を凝らす。

受注生産という土壌から育まれる、糸の情緒、服と人との親密な距離。

「糸を嗜む」。これは〈ナヤット〉のデザイナーである依田聖彦さんが、自身のブランドコンセプトを凝縮して表現したフレーズである。どうやら「嗜む」という言葉には、繊細なニュアンスが織り込まれているような気がする。消費するだけではなく、自分なりの距離感と愛着をもって対象に接しているような……。

「嗜む、という言葉には寛容さが含まれているように思います。品質の良い悪いや利便性でモノを判断するのではなくて、言葉にしきれない情緒とか、固有性を面白がる態度を大切にしたいです」

アトリエの玄関先で目に入る、糸の数々。

 そんな言葉のとおり、依田さんは、糸の個性がありありと伝わってくるような編み地や加工の選定に時間をかける。

「遠くから見て、他とは明らかに違うようなダイナミックなデザイン性よりも、服との親密な距離のなかで捉えられる物質性にこだわっています。糸が生きていると感じられるような状態にするために、試作はたくさんしています」

編み地の試作。新しいシーズンの製作に取り掛かるとき、アーカイブを振り返り、今の感覚に触れてくるものを探る。

 こうして、時間をかけたものづくりを可能にしているのが、受注生産という方法。卸売りをせず、年に1回、全国で開催するオーダー会で注文を受ける。注文後、到着までにかかるのは約半年。そうして待つ時間も、体験になる。

「土壌を変えると、育つものも変わる。この方法なら、時間のかかるものもじっくりと作れます。まずは原価率や製作にかかる時間などを取っ払ってみてものづくりをしてみたかった。それと僕自身、煽られながら買い物をするのが苦手で。焦らず、自問自答しながら選べる場所があれば、と思ってきました」

 依田さんは、そもそも学生時代にはファッションに興味を持っていなかった。けれど、たまたま開いた学校案内で、フィレンツェにサッカーを観に行こうと貯金していた金額と文化服装学院の入学金が同じだったことに運命を感じ、入学。

「そこで、無印良品のアートディレクションをしていたグラフィックデザイナー、原研哉さんの本に出合いました。デザインは身の回りのあらゆるものに介入していて、デザインがないところがない、ということに嬉しくなったんです」

小説家・群ようこのエッセイ『鞄に本だけつめこんで』と3人の社会学者による共著『質的社会調査の方法』は依田さんが何度も読み込んだ本。書き手や、その学問が積み上げてきた社会への「態度」を読書を通じ血肉にしていく。

 その後、〈ヨウジヤマモト〉の面接では、依田さんなりのデザイン観を話す。採用されたのはニットとカットソーの部門。企画、パターン、生産をひとりで行うことで一連の経験を積んだ。

「デザインは、態度の表明。どういう態度で世界と接するかを具現化していくことだと現時点では思っています」

ウールナイロンのモヘアをボディに、ネックやパイピングにラムのスエードを使用。起毛や洗いの加工をさまざまに試験し、この表情にたどり着いた。価格未定(ナヤットinfo@nahyat.com)

太さや撚りに強弱を付けたコットンのスラブ糸にウールを吹き付けて筒編みをしたニット。糸の内側に空間ができ、ふっくらとした風合いに。肘当ては定番のディテール。「機能的な理由もありますが、革と出合わせることでニットが引き立つように思えて」と依田さん。価格未定

ダブルポケットのシャツはシルク100%。絹の落ち綿を使用したテキスタイルを顔料で染め、白と生成りの中間のような色合いに。価格未定 

インフォメーション

NAHYAT

年に1回、オーダーを受け付けて生産する受注生産。卸売りではなく、ブランド自らユーザーに届けるかたちで運営する。次回は東京で3月6日にスタート。その後、大阪、愛知、福岡などで開催。期間中は誰でも入場可能。

Official Website
https://www.nahyat.com

Instagram
https://www.instagram.com/nahyat_official/

プロフィール

依田聖彦

よだ・まさひこ|1988年、群馬県生まれ。工業高校を経て、文化服装学院を卒業後、〈ヨウジヤマモト〉でニットとカットソー部門を担当。2017年に独立し〈ナヤット〉を立ち上げる。