ライフスタイル

いい部屋ってなんだろう?/「東京R不動産」ディレクター・馬場正尊

2026年3月6日

部屋とシティボーイ ’26


illustration: Norika Kato
text: Yoshikatsu Yamato
2026年3月 947号初出

好奇心のままに街をホッピングし、自由であり続けるための居場所を探す。

「東京R不動産」に通底している「自由に生きるための賃貸」というコンセプトのルーツは、今思えば、親の転勤をきっかけに始まった、高校時代の下宿生活にあったのかもしれません。

 最初の部屋は地元である佐賀にあった食堂の2階。住み込みで手伝って、まかないを食べ、好きなときに友達と集まり、麻雀に明け暮れる。こんなに自由な過ごし方ができるなんて! とラッキーに感じたことを覚えています。

 きっと僕はそのときから、いい部屋は、スペックや数字にできる定量情報では決まらず、そこにしかない空間の質、街に流れる匂いや音、体全体でダイブしたときに初めて感じられるドラマにこそ価値がある、と感じていたのかもしれません。

 それから大学に通うために上京し、卒業後、広告代理店に就職をして住んだのが中目黒でした。けれど、次第に「今、イケてる街」という認識が世間的にも強くなり、街の表情も変わってくるとなんだか居づらくなってきて。
 
 移動したいな、と不動産屋を回っているときに見つけたのが、今のオフィスもある馬喰町のエリアでした。

 日本橋の裏側に位置していて、中心部へのアクセスは抜群なのに、当時、やけに家賃が安かった。服の問屋が市場のように軒を連ね、洒落た気配がないのもかえってかっこいい(笑)。

 その前後で、取材でNYに行く機会があり、ミートパッキング・ディストリクトと呼ばれているエリアに行ったんです。今ではNY有数のブランドエリアですが、もともとは精肉工場が集まっていた地区で、その後、産業が衰退すると治安が悪くなり、家賃の安い場所になった。するとクリエイターがスクワット(無断占拠)でスタジオを作ったりと、現在進行形で街の物語が書き換えられているところだったんです。そういう変化が日本でもありうるのでは? と馬喰町に引っ越しました。

 こうして振り返ってみても、若くてフリーな身であったときに「未知の場所に住んでみよう!」と、好奇心に従って場所を転々としたのは、いい経験でした。そのときどきの自分の局面によって居心地のいい環境は変わるし、だから僕は、これまで居場所を固定化せずに生きてきたのだと思います。

 インテリアに関しても、身の丈が変化していくに応じて、家具を買い替える、ということでいいと思います。ひとまずIKEAで用を足しても、大人になるにつれて名作家具にバージョンを上げていく。高い椅子と安い椅子が同居しているのもリアリティですよね。

 思うに、今の時代は、住む人のパーソナリティが滲み出た空間こそが格好いいのではないかと思います。無理をして、取り繕ったような“調和”のある部屋はかえって格好わるい。そっけない人のそっけない部屋は素敵だし、フィギュアがたくさんあったり、物書きの人の部屋に本が溢れているのは、多少散らかっていても格好いい。息をするようにそうなってしまった、という空間が、僕が思う、いい部屋です。

教えてくれた人

馬場正尊

建築家、「東京R不動産」ディレクター

1968年、佐賀県生まれ。博報堂、建築とサブカルチャーを繋ぐ雑誌『A』の編集長を経て、2003年に建築設計事務所Open Aを設立。同時期に「東京R不動産」をスタート。建築設計、都市計画、執筆を行う。近頃は「次はどこに住もう?」と妻と東京散策に出かけている。