カルチャー
宇和川輝は『耳をすませば』に触発されてハーモニカを始めた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.11
2026年3月4日
illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回のゲストは、2025年に長編デビュー作『ユリシーズ』が公開されて話題となった宇和川輝監督。紹介してくれたのは、スタジオジブリの不朽の名作『耳をすませば』だ。
今日の映画
耳をすませば(近藤喜文監督、1995年)
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
価格:ブルーレイ7,480円(税込)DVD5,170円(税込)
© 1995 Aoi Hiiragi, Shueisha/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NH
中学3年生の月島雫は、ひょんなことからヴァイオリン職人を夢見る同級生の天沢聖司と仲良くなる。将来の目標が明確な聖司に後めたさを感じる雫は、彼の祖父が営むアンティークショップ「地球屋」にあった猫人形「バロン」を主人公にした物語を書き始めるのだった。
『耳をすませば』には、主人公の雫が、バイオリン職人を目指す聖司の工房を訪れるシーンがあるんですね。
そこで雫に演奏を頼まれた聖司が弾くのが、「カントリーロード」。たまたま自分で「カントリーロード」の歌詞を日本語に訳していた雫が、そのメロディに乗せて口ずさむと、引き寄せられたようにおじいさんたちがどこからともなく集まり、それぞれに楽器を奏でるセッションが始まる。このシーンを初めて観たとき、あまりにも素晴らしくて号泣してしまいました。以来、もし自分がこういう瞬間に立ち会うことがあったら絶対に参加したいなと、ハーモニカをいつも持ち歩くようにすらなったほどです(笑)。まだそんな瞬間には立ち会えてませんが。
と同時に、この瞬間には僕が尊敬するジョナス・メカスの作品に近いものが流れているとも思うんです。彼は1960年代から日々のあれこれをカメラで撮り、日記として作品にまとめてきた人。特に僕が大好きな『歩みつつ垣間見た美しい時の数々』は2000年の作品で、これまで使わなかったアウトテイクからできています。それを観ていると、メカス自身の独特なナレーションも相まって、彼と一緒に編集台の前に座り、当時の生活の中にあったかけがのない時間を、一緒に再発見していくような感覚になれることに、いつも感動を覚えます。
特に忘れられないのは、ナレーションでランダムに日付が口にされる中、「6月26日」と呟いた後、「レッツ・セレブレイト!」みたいなことを言うシーン。なぜなら、僕の誕生日だから(笑)。それはともかく、メカスはなんでもない時間をかけがのないものとしてセレブレートするように、カメラを回していた気がするんです。そして、『耳をすませば』のセッションにも、そのセレブレーション的な感触がある。
映画について語る場合、話の筋とか題材に注目されることが多いと思うんですよ。だけど、僕にとって大事なのは、そういうセレブレーション的な瞬間や時間が映っているかどうか。それが映っていれば、筋とか題材とか、もしくは伝えたいメッセージって瑣末な問題。僕自身はそんなことを考えながら、映画を観ているし、作っているんです。
語ってくれた人
宇和川輝
うわがわ・ひかる|1996年、神奈川県生まれ。上智大学外国語学部を卒業した後、映画を学ぶためにスペインに渡航。サン・セバスチャンにあるエリアス・ケレヘタ映画学校の修士課程を修了する。初の長編映画『ユリシーズ』は、数々の国際映画祭に正式出品された。現在は東京を拠点に映画制作をしている。
Instagram
https://www.instagram.com/hikaru_1001nights/?hl=ja
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