TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】フレスコのこと。

執筆:大野彩

2025年6月9日

「フレスコ」は、人類が絵を描き始めた頃から、その思いを受け止めてきた最古の技法と言っても過言ではありません。フランスやスペインの国境地帯に広がるピレネー山脈にあるラスコーやアルタミラの洞窟の中に描かれた壁画は今も美しく残されています。天然のフレスコ画とも言われています。

ラスコーの洞窟壁画
wikimedia commonsより(public domain)

 絵画技法には、油絵、水彩画、墨絵、アクリル……など、色々ありますが、フレスコの一番の特徴は石灰(消石灰 ※註:ここでは石灰=消石灰としてお話します)を使うところです。絵具には何も入れません。水だけで溶いて筆で描きます。描く下地は石灰で作ります。壁などに塗った石灰が乾かないうちに絵を仕上げていくのです。砂と石灰で、その材料を作って左官屋さんがするように鏝で塗って画面を作ります。石灰が乾かないうちとは、下地を作ってから数時間から長くても一日くらいです。この間に絵を完成させれば、それは大理石に入れ墨をしたかのようになって、永遠の絵画となるのです。

 壁ができれば、絵を描く準備完了。絵具(ピグメント:粉の顔料)を水で溶いて描けばいいのです。

 フレスコの面白いところは、描くのに都合のいい時間帯があって、画面の石灰は水と混じった絵具をどんどんと引き取ってそこにピタリと留めてくれます。これが〈石灰の力〉です。この時間がフレスコの醍醐味の味わえる、やみつきタイムです!イタリア語でモメントドーロ(黄金の時)と呼びます。しかし、この時間帯を過ぎると壁は、「もう水はいらないよ~」と言ってきます。それまでに一生懸命描くのです。

 大きな絵は、1日分だけを描き、また次の日に壁を塗って引き続き描いていきます。「あー失敗しちゃったー」なんて時はそこの壁を削って次の日、新しく壁を塗るのです。

プロフィール

大野彩(勝山彩)

おおの・みさお|1953年、東京都出身。フレスコ画家。フレスコ普及協会代表、壁画LABO主催。多摩美術大学油絵科卒業 東京芸術大学大学院壁画科修了(フレスコ専攻)。東京芸術大学大学院非常勤講師、武蔵野美術大学非常勤講師、早稲田大学客員研究員、東京文化財研究所協力研究員、多摩美術大学講師などを務める。著書に『フレスコ画への招待』(岩波アクティブ新書/2003年)。2008、09年には多摩美術大学共同研究「時を航るフレスコ」展Ⅰ・Ⅱを開催。『ジブリ美術館エントランスホール制作』(壁画LABO/2001年)を手がけるほか、医療施設、寺院、図書館、商業施設など、屋内外壁にフレスコ壁画制作する。その他個展・グループ展多数。

フレスコ普及協会 Official Website
https://fresco-net.jp/

壁画LABO Official Website(フレスコ画の描き方や、制作した作品について見られます。)
http://www.hekigalabo.cm