TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】本当に美味しい手打ちパスタとは何か

執筆:片桐祐樹(Trattoria Annamaria)

2025年6月5日

本当に美味しい手打ちパスタとは、シンプルであることだと私は思います。最高のパスタと最高のソースがあれば、余計な装飾や具材は必要ありません。それをしっかりと和えるだけで、十分に心を打つ一皿になる。シンプルを極めることが、最も贅沢なことなのです。

最近は“インスタ映え”を狙った、派手で装飾過多な料理やパフォーマンスが目立つようになりました。しかし、本質的な美味しさとは見た目の派手さではないと思っています。

Trattoria Annamariaでは、手延べのタリアテッレをはじめ、1800年代から使われている手動のパスタマシーン「トルキオ」を使ってビーゴリという生パスタを作っています。手動だからこそ、その日の生地の状態に繊細に向き合うことができ、常に改良を重ねられる。そして何より、手をかける分だけ、自然と気持ちがパスタに乗ると感じています。

1875年イタリアのボッテネ社が開発した手動式のパスタマシーン、トルキオを使ってビーゴリという太めのロングパスタを仕込んでいる様子。

ビーゴリの表面に凸凹が出来ているのがお分かりいただけますでしょうか。これによりソースがパスタとよく絡み美味しくいただけます。

ソースにも同じ想いを込めています。たとえばトマトソースは、二木農園さんの新鮮な完熟トマトを使って仕込みます。だからこそ、味付けはほんの少しのアーリオ・オーリオと塩だけ。具材は一切入れず、素材の美味しさだけで勝負しています。

二木農園さんの高級トマト。トマトが美味しい4月と5月のものだけを使う。1回で100kg のトマトを仕込み、それを年2回行う。

トルキオ製のビーゴリと二木農園さんの高級トマトを使ったトマトソース。ブラータチーズ乗せ。
トマトソースの酸味とブラータチーズのコクが最高に美味しい一皿。

ジェノベーゼソースも同様です。少しだけ生クリームで伸ばした自家製ペーストに、トルキオで作ったビーゴリを合わせる。具材を加えれば華やかにはなりますが、それが逆に味の妨げになることもある。だからこそ、潔く削ぎ落とす選択をしています。

トルキオ製のビーゴリと自家製のジェノベーゼ。少しだけ生クリームが入っているのがモデナスタイルだ。

パスタの表面の凸凹がソースと良く絡む。これも美味しいパスタの条件だ。

私が約5年イタリアで修業して得た確信は、イタリアのパスタの美味しさは、その「シンプルさ」にあるということ。真っ直ぐに素材と向き合い、心を込めて一皿を仕上げる。それこそが、私たちが目指す「本当に美味しい手打ちパスタ」です。

プロフィール

片桐祐樹

かたぎり・ゆうき|1986年生まれ、山形県出身。イタリア・モデナのOsteria Francescanaの近藤シェフに憧れ料理の道へ。イタリアやロンドンの星付き店で研鑽を積み、京都では日本料理店でも経験を重ねる。北イタリア郷土料理と手打ちパスタに情熱を注ぐトラットリアを京都で開業。

Instagram
https://www.instagram.com/trattoria_annamaria/