TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】大城のぼるの夢とエニグマ。
執筆:川勝徳重
川勝徳重
text: Tokushige Kawakatsu
edit: Ryoma Uchida
2024年10月22日
『痩我慢の説』と同時に、私は「夢と重力」という評論を、まんだらけの古書目録『まんだらけZENBU』で連載していました。それは戦前・戦中に100冊出版されたナカムラ・マンガ・ライブラリーという漫画本についてのとても長い評論です。この漫画本は、函入上製クロス装……ハード・カヴァーが布に包まれていて函に入っている立派な装丁。しかも漫画に色が付いている。現代ではちょっとあり得ないような豪華な漫画本が、1933年から1943年のあいだに100冊も出版されたのです。
このナカムラ・マンガ・ライブラリーを始めた大城のぼるという漫画家が、私はとても好きです。「夢と重力」という評論のタイトルは、彼の作品を読み解くためのキーワードなのです。手塚治虫も彼のファンであり、大城・手塚・松本零士の三人の鼎談集も出版されています。
大城作品も魅力のひとつに「夢」の描き方があります。大城漫画のキャラクターたちは不意に眠り落ちることがしばしば。そして夢の中で見た内容が、その後の現実の世界で繰り返されるという特徴があります。私の『痩我慢の説』にも、そんな人物がたくさん登場します。とはいえ、それは影響やパロディという意識的なものではない。そういうことは、後から気づいたのです。描いているときは一所懸命ですから、そんなこといちいち考えません。不意に現れた、その時代を超えた符号に気づくとき、私は漫画を描いているのではなく、何かに描かされているように感じるのです。
いい漫画は、たくさんの謎をわれわれに残します。考えれば考えるだけ、どうしてこのような漫画が生み出されてしまったのかわからず、途方にくれてしまう。大城作品にはそんな「秘密」がたくさんあります。もしご興味ある方がいらっしゃいましたら大城のぼる『愉快な鉄工所』をお読み下さい。復刻本もあります。それは、どこまでが現実で、どこまでか夢なのかわからないメタフィクション性と自伝性を併せ持ったユニークなもの。これが1941年に描かれたとは、にわかに信じられません。
この漫画の中で登場人物たちは「夢」の中で満州大陸へ行きます。そして作者自身である大城のぼるも、この作品を描いたあと満州大陸に渡り、敗戦を迎えます。満州では大変な苦労をされたそうです。これまでも漫画の中で、予知夢としての「夢」を描いてきた彼ですが、その「夢」はついに物語を超えて、自分の人生にまで影響を及ぼすようになる……。大城のぼる作品は、一見すると可愛らしいキャラクターが描かれた子供向けの漫画ですが、そこには異様な、悪魔的な何かがあるように思えてならないのです。
プロフィール
川勝徳重
かわかつ・とくしげ|1992年、東京生まれ。漫画家。著書に『電話・睡眠・音楽』『アントロポセンの犬泥棒』『痩我慢の説』(いずれもリイド社)。現在、戦前の児童漫画叢書ナカムラ・マンガ・ライブラリーの長編評論『夢と重力』執筆中。2025年にまんだらけ出版より刊行予定。
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