カルチャー

漫画は世界の共通言語だ。

Silent Comic

2022年11月5日

photo: Kazuharu Igarashi
text: Nozomi Hasegawa
2022年11月 907号初出

漫画にはたくさんの言葉が詰め込まれている。吹き出しのセリフにキャラクターの心の声、効果音、ときには作者のツッコミが飛び出すことも。ストーリーを展開していくうえで欠かせない要素ともいえる言葉をすべて取っ払ったら? そんな漫画の可能性に挑戦した作品が世界中で作られている。通称、サイレントコミックだ。パリの巨匠メビウスの名作『アルザック』に宮崎駿が影響を受けたのは有名な話。漫画文化はインターナショナルだ!

SILENT COMIC 1
『Arzach』

メビウスのサイレントコミック

 翼竜のような生物に乗り、荒廃した土地を飛び回る戦士アルザックの活躍を描く。絵に直接彩色をする、という当時の最先端技術が使われた。大友克洋や谷口ジローなど、フランスのバンドデシネの巨匠、メビウスのファンを公言する日本の漫画家も多く、宮崎駿は本作に影響を受け『風の谷のナウシカ』を制作した。彼の描く細密で美しい絵は「メビウスタッチ」とも呼ばれ、線や点で独特の浮遊感を表現している。

インフォメーション

『Arzach』 メビウス

Les Humanoïdes Associés 2011年 全1巻

SILENT COMIC 2
『Edited Days

 小説『アーモンド』の表紙を手掛けたことで知られる韓国・ソウルの姉妹ユニット「0.1」。キッチンでコップを手に取るところから始まり、紙を切り、歯を磨き、眠りにつく。見開き2ページに1枚絵と画集のようにも思えるが、ページをめくるごとに時間が進み、1つの物語として楽しめる。登場する一人の女性が淡々と作業を進めているのが何だかリアルで、まるで彼女たちの日常を覗いているかのよう。

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『Edited Days』 0.1

jjokkpress 2021年 全1巻

SILENT COMIC 3
『ジュン』

石ノ森章太郎のサイレントコミック
©︎石森プロ

 漫画家志望のジュン。父に原稿を破られた失意の中で出会った少女に導かれ、幻想世界で様々な体験をする。作者はなんと、『サイボーグ009』や『仮面ライダー』で知られる石ノ森章太郎。「絵だけで詩を書いてみたい」というコンセプトのもと制作され、手塚治虫が嫉妬した作品としても有名。1967年、手塚治虫率いる虫プロ商事の漫画雑誌『COM』に掲載され、その前衛的な作風から「実験作」と評された。

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『ジュン』 石ノ森章太郎

ポット出版 1969年 全5巻

SILENT COMIC 4
『游戏』

我是白のサイレントコミック
我是白のサイレントコミック

 ゲーム制作のディレクターとして働いたのち、イラストレーターや漫画家として活動する中国・上海のアーティスト、我是白(Woshibai)による短編集。最小限の線のみで描かれたイラストは、サイレントならではの静けさを際立たせている。世界を俯瞰して見ているように物語が進むため、たとえ日常の描写であっても奇妙に見えるから不思議。

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サイレントコミック

『游戏』 我是白

中信出版集団 2019年 全1巻