ライフスタイル

[#4] 靴と5月25日の出来事。(担当・関谷編)

トーチ編集部員4名によるリレー形式コラム。

2021年5月30日

text: Takehiro Sekiya
edit: Yu Kokubu

これは5/25(火曜日)に履いていた僕の靴。
気に入ってるからメルカリで新古品を探して買った二足目。
ellesse×JIEDAの19FW Heritage Vinitziana BOA。
スエードの具合がラフな服でもハイブランドの服着ても調子よくて気に入ってる。

突然だけどコレを読んでる君はどんな靴履いてる?
綺麗?汚れてる?なんでその靴履いてる?

僕は主に漫画の本を作るのが仕事で、今はトーチwebというサイトを作って運営をしている。編集者になってもうすぐ15年、トーチwebの編集長は創刊から7年近くが経つ。
本を読むのが好きでこの仕事についた。

本が好きな理由は他者の視座から見た世界を知れるからで、自分の見ている世界や価値観は僕の視座から見た世界でしかなく、他者には無数の他者だけの世界があるということを認識して少しでも他者に優しく思いやりのある人間として楽しく暮らしたいと思っているからかな。だから他者の靴に興味がある。

写真の撮影場所は抽選にあたって4月から借りてる目黒区民農園8平方米の我が家の畑で、今は大根、ほうれん草、レタス、スイスチャード、スイカ、トマト、枝豆を育ててる。
最近スイカの親蔓を摘心した。そのほうが子蔓の成長が促進されて収穫量が伸びるんだって。どうなっていくのか見てみるのが楽しみ。
新しいことを始めるには腰が重いというか面倒だなと感じる中年になったけど、
始めたら始めたでその後の自分にしかわからないことがあるって経験的に知っているようなオジさんになりつつある。そうありたい。
今年で39歳になる。

梅雨入り前だけど暑い日が続いたりするとほぼ毎日妻か僕が様子を見に行って水やりしたり雑草を抜いたりしてから会社に行く。
それで今日も自転車で畑によってから高円寺にある会社まで片道13キロほどをチャリ通勤していたんだけど、環七通りと淡島通りが交差する若林の交差点を南から通過して少し北上した辺りの側道に停車していた配送中のトラックの右側を通過しようとしたら勢いよく扉が全開になり、それが僕の自転車のハンドル左部分にあたってコケた。10時55分。

僕は二車線ある側道の真ん中から右車線に放り出される形になって、右車線を走る後続車のタイヤが背中に迫るのを瞬時に確認して咄嗟に頭を動かしたことで掠めるだけですんだ。(11歳のときにT字路を飛び出してトラックに轢かれたことがあるんだけど、その時も車の前面だけにフォーカスされて、運転手の顔まで見えてぶつかった後の身体の動かし方をイメージしたのと似たような体験。その時はしばらく気絶して激しい脳震盪に襲われたんだけど、気絶する前後に人生がフラッシュバックする走馬灯も見た。走馬灯の始まりは怒った母に家を締め出されて、僕は泣きながら靴がないと歩けないと言って靴がドアから投げつけられるシーン。)

車に轢かれなくてよかったんだけど両手、右肘、右膝、右臀部の打撲擦過創で全治一週間。自転車の左ブレーキとグリップが破損して使えない状態になった。
で、痛みから震える手で110番する。
事故った相手が会社に報告をしていて僕のチャリについて「見たことがないような自転車」と形容している。
6年前にメッセンジャーだった友達とパーツを買い集めて夜な夜な自宅で組んだ思い入れのある自転車で、フレームはABOVE BIKE STOREのSteel Era
軽量クロモリで溶接跡もそのまま無垢な状態でクリア塗装されているもので、塗装の剥げたところからサビが走って紋様になっていくのが経年変化で楽しめる。ギアは前がシングルで後ろに7枚。前がシングルってのがこだわりでステムに取り付けるシフターを探すのに苦労した。ホイールは手組みだし、ブレーキレバーはグリップエンドにU字になるものを使ってるなど、ちょっとしたこだわりが詰まったチャリなのだ。

頭を掠めた車の運転手が心配して戻ってきてくれて無事を確認して立ち去っていった。戻ってきてくれたのが嬉しい。
最寄りの交番の警官に加え交通捜査係の警官が到着して実況見分。刑事事件化するかを聞かれる。
車はエンジンが切れているから交通事故でなく業務上過失致死傷罪(5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金)になるとのこと。
相手も仕事中で僕もこれから仕事だし、大事に至ってないから治療費と修理費が貰えればいいと思って、刑事事件化しないことを伝えて実況見分が終了。事故から一時間ほどで解散になった。

片方のブレーキが使えないけど運転して会社まで行って良いことを事件担当警官に確認して出社。

12時35分、相手の保険会社から連絡があり内容を聞くと、治療費の対象にならないことと修理費については過失割合の設定に対して互いの修理費(相手側は車の傷)の差額になると伝えられる。
相手方の保険会社に説明した内容が、僕が空いているドアに不注意で突っ込んだという話になっていて、なるべく賠償しない方向で話を進めようとしている態度と、事件状況について僕の認識とズレていていることにもの凄くイラつく。
治療費なんか打撲と擦り傷で数千円、自転車も1万円かからないくらいで修理できる話だぞ。何故そうなる?
相手方から聞いた話に基づいた保険会社の客観的意見とかどうでもよくて、とにかく相手と認識が食い違っているのが不快。
僕は身体も傷ついているし今このやり取りでとても不快な気持ちになっているのがわかりますか?金なんかどうでもいい、気持ちの問題、そのことを相手に伝えてくれますかと言って電話を切る。

昼食をはさんで3月までの編集部の収支報告と前期・前々期・三年前との比較・評価を専務と取締役と確認。
続いて10月以降の売上と出版物についての会議を各編集長たちで確認するなどなど。

16時21分に再度、保険会社から電話。
相手に改めて事故の内容を聞きましたが同じでした、ぶらーぶらーぶらー。
オレは何でこの保険会社の会ったこともない担当者と体温の感じられない会話をしなければならないのか。
治療と修理の金額の見積もりを伝えると態度が軟化して相手方に伝えますとか言うのがまたイラつく。
最悪の気分だからやっぱり刑事事件化するということを相手に伝えてくれ、話はその後にしようと言って電話を切る。

世田谷警察署交通捜査係の事件担当者に連絡して刑事事件化する意思を伝え、診断書が必要とのことなのですぐに職場近くの整形外科へ行く。
事故ったこととその処理について苛ついてる話を編集部員に共有して、予定していたトーチ編集部の会議を17時30分に変更してくれと言うと、子育て家庭の多い編集部員の都合がつかず、明日にリスケ。最悪。申し訳ない。

診断書って出してもらうだけで5千円かかることを知る。
問診と上半身の傷の部分を消毒する処置を約1分受け保険証を使わず実費で10040円。高すぎる。
再び世田谷警察署に連絡して今後の流れを確認。あとは後日の手続きとなる。
一応、家族にも事故のことを連絡して19時。

一体この後、どれだけの時間がかかるのか。このことを通じて僕の気持ちは癒えるのか。
自転車の保険に入っておけば良かったのか。契約しているクレジットカードの付帯保険とかを妻が一通り確認してくれた(優しい!)けど役立つものは無かった。

夕飯を食べてから会社の屋上でボージャック・ホースマンのシーズン6を見てさらに暗い気持ちになっていると、地元静岡に住む8歳下の妹から電話がかかってきた。
妹は任天堂スイッチとスーパーマリオのソフトを買ったんだけど、やり方がわからないと最近電話してくる。
マリオの横に数字が出てくるんだけどこれが何かわからないなどなど、僕が小学校の時にマリオをプレイしてたからわかるんじゃないかと期待して質問してくる。
YouTubeのプレイ動画とか攻略サイトとか検索したらと話してみるがやり方がわからないとのこと。
じゃあわからない所を写真で撮ってLINEで送ってくれと言ってみるが、そのやり方もわからないようなので今度会った時に目の前でやりながらわからないところ教えてと伝える。
それしかできない。僕の手元にはスイッチもマリオもない。
高校卒業後から実家にほとんど帰らない生活をしていて、その以前から家族間の関係はずっと希薄なので会話の距離感もわからない。
妹は1日500円の工賃がもらえるプラモデルのパーツを袋詰めする就労継続支援B型の作業場で働いている。
妹が家出したときは何故かそこにいない僕に母からも妹からも電話がかかってきて、
妹の話を聞いて説得したり、そこに一緒にいるよくわからないオジさんと話をして家に帰してくれと話をしたこともある。
一人暮らししたいんだけどどうやったらできる?東静岡駅のとこに新しく立ったマンションがいいと思うんだけどって聞かれる。
僕は一人暮らしに必要な家事能力や賃貸契約なり購入なりの必要になりそうな手続きや金額を噛み砕いて伝えて難しいことを匂わせることしかできない。
父は昨年、そんな妹と母に家と生命保険を残して勝手に熟年別居を始めていて、妹はゲームのやり方を教えてもらえる人すら身近にいない。

僕と妻の間に息子が生まれてから実家との関係が少しずつ戻ってきていて、僕以外にその必要を感じているのかわからないけど20年以上ずっと放置してきた家族のことについていつか向き合わないとというか、独りよがりかもしれないけど向き合わないと気持ち悪いんだよなぁとずっと思いながら話し合うのを先延ばしにしている。
そろそろ家族について話す機会を作るタイミングなんじゃないか。
他の家族は話し合う必要性を感じてないのか、それぞれどんな気持ちで暮らしているのか、妹の将来をどう考えているのか聞いてみたい。

緊急事態宣言があけたら僕らが静岡に帰るか、中間地点の熱海にでもみんなで旅行しようと言って電話を切る。
ふと足元に目をやると 靴の上部に擦れてついた黒い汚れが見える。
きっと事故った時についたものだと思った。

僕は今、そういった靴を履いている。
君は今、どんな靴を履いてる?
それが知りたい。

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後日譚。

翌朝午前9:46に保険会社から電話があり、相手方が僕の話を全面的に認めて治療費も修理費も無駄になった一日分の給料も賠償すると伝えられた。

世田谷警察署には6/4の10時に行くことになっている。
診断書と印鑑と身分証明書が必要とのこと。

プロフィール

トーチweb

「トーチ」はリイド社が運営するwebサイト上にある辺境の観光地であり、現在4名の編集部員で制作される漫画雑誌。『オルタナティヴな表現』と『自分たちの老後への道筋』を探し、光をあてる(発信する)ことを目的に2014年8月に始まったプロジェクト。第4回目のコラムを担当したのは編集長の関谷武裕さん。

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