TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

[#2] 珍苗字のつらさについて。(担当・信藤編)

トーチ編集部員4名によるリレー形式コラム。

2021.05.16(Sun)

この世の中には、生きづらいと思う出来事が、星屑のように散らばっていますよネ。
毎日毎日毎日、前方を一切見ずにエスカレーターを逆走しようとする歩きスマフォ族を避けるのに失敗して衝突し、「わぁ、なに、びっくりしたぁ」みたいな顔をされる度に思います。
ああ、いますぐ家に帰って酒を飲みたい…。
そんな日々の中でも、私がダントツでやりづれえなあと感じていることは、「信藤(のぶとう)」という珍苗字です。

苗字を変えたい。ただそれだけの理由で結婚したいと思うことがあるほどに、めんどうくさい思いをすることが多いのです。
結婚をなんだと思っているんだと非難されそうですが、いいからちょっと聞いて欲しい。珍苗字の何が辛いのかを…。

1. 読み方を間違えられて気まずい
「信藤」を「のぶとう」と読む人はまずいない。学校でも職場でも、初対面の人とは「しんどう」と呼ばれることから関係がスタートする。
これを訂正する時の姿勢は何がベストなのか…未だに正解がわからない。
さらっとかる~く訂正しても、こちらが申し訳なくなるくらい謝られる。もう友達にはなれない。
すみません、のぶとうなんですと低姿勢で訂正すると、土下座する勢いで謝られてしまう。もはや永遠に友達になれない。

ただ、実は「しんどう」と読まれることはまだいい方で、うっかりさんは「さとう」とかなり斜め上方向の読み間違いをする。信藤と佐藤、さらっと見ると確かに字面が似ているので分からなくもないのだが、これが結構困ったことになる。

小学校1年生の時に通っていた水泳教室。
25m背泳ぎのテストを一人ずつ受けていて、女のコーチ(圧が強くて苦手だった)が「次、佐藤!」と言った。
誰も泳がない。
それもそのはずで、このクラスに佐藤という苗字の人間は存在しない。
全員が「?」を頭に浮かべている。

コーチはイラっとしたのか、細い眉毛がいつもより30%増でつり上がっている。めちゃ怖い。
彼女は「おい、佐藤!」「佐藤!!!」と叫び続け、6歳とか7歳の我々は怖すぎて一言も発せずに震えていた。
ついにブチギレたコーチが般若の形相でこっちにやって来る。そして、私の頭を思い切り殴った。

「佐藤!!!!何ぼーっとしてんだ、〇〇すぞこの★△◻︎☆が!!!!」

私は翌週から水泳教室に行くのを辞めた。

2. 発音しづらい/聞き取りづらい
「のぶとうです」
「えっ?」
「の・ぶ・と・う」
「のぶ…とい?」
「野太くはないです」

お店に電話予約する際、一発で聞き取ってもらえることはまず無い。
珍苗字仲間の友人からは「偽名使えばいいじゃん」と言われるが、私は記憶力がまじで悪いので、どんな偽名にしたのかを絶対に忘れる。
一度偽名で予約をし、当日まんまとそのことを忘れて店員を困らせたことも既にある。
この世で一番信用ならない人間は自分自身だ。

それにもし万が一、常連になってしまった時のことを考えると、偽名を使うのはかなりリスキーである。
「やあやあ、先日はご来店ありがとうございました、山本さんっていうんですね!」
陽気に話しかけてくる店員に対して、小心者の私が「あ、すみません…あれ偽名なんです…」なんて言えるはずがない。何故偽名を使ったのかという理由を説明すればするほど、人間としての信用が下がる気がする。そしてその店で山本として生きていく根性もない。誰にも会いたくない。もう全部面倒くさい。

先日、家の近所にあるお気に入りの居酒屋を予約した。やはり電話時に聞き取れなかったらしく、「ご予約の3名さま、こちらです!」と通されたテーブルには《ノブドさま》と書かれた紙が置いてあった。
それからその店に行く度に、店員は私のことを「ノブドさん」と呼ぶ。
発音も「ノ」にアクセントが置かれていて、もう何が何だか全然わからない。自分が呼ばれているのだと理解するのに、いつもワンテンポ遅れる。

「ノブドさん、いつもありがとうございます。何飲みます?」
もうダメだ。
もうこの店で私は、ノブドさんとして生きていくしかない。

3. やばいことができない
「実名報道された時に、我々の苗字はイッパツで特定されてしまい、一族もろとも吊し上げられるので、犯罪は犯さないように」

父は時々ヤバめな発言をする人間だが、その中でもベスト3に入る言葉だ。でも本当にその通りだと思う。
犯罪だけでなく、TwitterやInstagramなどといったSNS類は、絶対に実名でやってはいけない。
仕事でどうしてもfacebookのアカウントが必要で、ローマ字表記の名前のみ記載してほぼ放置していたにも関わらず、先日飲み屋で話しかけてきたEXILEマキダイさんのいいところを全部抜いたような人間(推定38歳)から友達申請が来ていた。ゾッとした。ああ、苗字名乗らなければよかった…。
マキダイさんマイナス500,000,000点のプロフィールを出来心で覗いたが、「愚直に生きている人間こそ最強」と書いてあって絶望してしまった。もう誰とも会いたくない。

珍苗字はネット上だと秒で特定される。私は特定の恐ろしさを誰よりも知っている。なぜなら自分が特定魔だからだ。
どれぐらいのレベルかというと、職業と苗字or下の名前が分かれば基本的にはどんなアカウントでも特定できる。
ぞっとするやり口なので、詳しくは書かない。

本来はこのコラムも、本名で書くべきではない。しかしトーチwebにフルネームががっつり記載さている以上、「N藤」なんてぼかしても意味がない。いつ何時でも親族・友人・知人・過去の恋人に検索されてもいいよう、裸一貫の気持ちでこの文章を書いている。
イエーイ、リア友のみんな、見てるぅ~~~!?

プロフィール

トーチweb

「トーチ」はリイド社が運営するwebサイト上にある辺境の観光地であり、現在4名の編集部員で制作される漫画雑誌。『オルタナティヴな表現』と『自分たちの老後への道筋』を探し、光をあてる(発信する)ことを目的に2014年8月に始まったプロジェクト。第2回目のコラムを担当した信藤さんは入社歴6年。担当作品に『自転車屋さんの高橋くん』『姉の友人』『そしてヒロインはいなくなった』等がある。

http://to-ti.in/
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