カルチャー

【#1】『シンプソンズ』について。

2021年5月14日

 

「シンプゾンズ」© 1989 Twentieth Century Fox Film Corporation
ディズニーがお届けする公式動画配信サービス、ディズニープラスで配信中

 最近のマイブームは、家族で『シンプソンズ』を観ることです。

 そもそも僕は子供の頃に、全部リアルタイムで見ていたほどの大ファン。「なぜ今?」と思うかもしれませんが、理由はディズニープラスに入ったから。これまで日本ではソフトでしか観られなかったから、キャラクターは知っていてもどんな内容かはよくわかってない人が多いんじゃないでしょうか? だけど、『シンプソンズ』を知らなければ、90年代のアメリカのことはわからないってくらい重要なポップカルチャーなんです。なので、この1ヶ月は僕なりに『シンプソンズ』の面白さを語っていければと思っています。

 1989年にFOXチャンネルで放映開始され、現在もまだ続いている『シンプソンズ』は、マット・グレイニングというアングラ漫画家が原作者で、アメリカの真ん中にあるという架空の街スプリングフィールドが舞台。中心となるのは、原発で働いているものすごく馬鹿なおじさんであるホーマー、彼の妻であるマージ、いたずらの天才である小学4年の長男バート、めちゃくちゃ頭がいい小学2年の長女リサ、そして存在感が薄い赤ちゃんのマギーからなる5人家族。だけど、家族の話だからって『ちびまる子ちゃん』みたいなものを想像したら大間違い。アメリカ社会を皮肉るようなギャグが連発しますからね。

 例えば、僕が本当にすごいなと思ったのは、シーズン3の4話「マフィアのバート」というエピソード。なんと、このエピソードでは、バートがバイトとしてマフィアに入ってしまうんです! そんな中、彼の学校の校長が消えてしまったので、「まさかバートが殺したのでは……」と疑われて法廷に呼ばれるのですが……結末は自分で確かめてほしいので言いませんが、ここではマフィアも弁護士も警察も、すべてが馬鹿にされています。他の話ではあらゆる企業や教育制度まで皮肉られる。さらに言えば、放送局であるFOXチャンネルも批判する。まぁ、FOXチャンネルは右翼的な放送局なのに対し、『シンプソンズ』は明らかに左翼的な思想で作られているのでわからなくはないですが、日本だったらありえないですよね。つまり、ハーバード大出身の頭のいいクリエイターたちが、表面的にはただ面白いギャグの裏で、そんなふうに、アメリカの悪いところを皮肉り続けるのが、『シンプソンズ』なんです。

 もうひとつ画期的なのが、1エピソード内のギャグの多さ。それまでのアメリカのコメディが2分に1回くらい笑えるシーンがあればよかったのに対して、ほとんどすべてがギャグ。にもかかわらず、すべてが面白いんです。なぜそんな事になっているかと言えば、秘密は作り方にあります。まずはライターチームの誰かが脚本を書く。その上で、チームでひとつひとつのギャグを吟味し、面白くなかったらどんどん差し替える。脚本が固まったら、声を録音するんだけど、そこでも面白くないと感じられた部分はどんどん修正していく。その後、アニメのラフを作り、声を当てて確認する。そのときも「1回目は面白かったけど、10回聞いてみたら面白くないから差し替え」とか、厳しく審査していって、すべてのギャグが面白くなるまで作り込んでいくんです。つまらないわけがないですよね。

 特に僕が好きなのはシーズン3からシーズン8まで。すべてのエピソードをもう10回以上は観ているんじゃないかな。途中からでも十分に楽しめるので、ぜひ皆さんも観てください!

これは私物のDVDボックスです。

プロフィール

W. デーヴィッド・ マークス

1978年、アメリカ・オクラホマ州生まれ。文筆家。著書に『AMETORA 日本がアメリカンスタイルを救った物語 日本人はどのようにメンズファッション文化を創造したのか?』がある。ステータスと文化の関係性についての新しい本を執筆中。