カルチャー
【#1】「マンガとゴシック」番外編——楠本まき展を堪能
2022年11月12日
text: Mamoru Goth-O
edit: Ryoma Uchida

弥生美術館で開催中の「線と言葉 楠本まきの仕事」展に行ってきました。
楠本まき先生と言えば日本のゴシック・カルチャーの最重要人物の一人。『Kの葬列』はビアズレーゆずりの細いアラベスクな描線にうっとりするゴシック漫画の傑作だし、『KISSxxxx』はゴスロリがブームになる10年近く前にそのファッションやライフスタイルを提示した予言的な作品です。
あと『耽美生活百科』なんてカルト・バイブル化した本も出してますから、耽美系カルチャーの伝道師の側面もありますね。そうなると、いきった白人大学生をチェーンソーで嬲り殺すアメリカ南部のホワイトトラッシュをゴスいと感じるセンスで書かれた『ゴシック・カルチャー入門』の著者(←私)とは、楠本さんはもっとも縁遠い人なわけです。
が、最近改心しまして(笑)、トラッシュカルチャーより耽美系カルチャーにむしろ関心を抱くようになりました。Real Sound Bookで「マンガとゴシック」という連載を始めたのをきっかけに少女マンガを色々読み進めてるので、楠本先生の存在感が急激に大きくなり始めたってのもあります。で、実際に展示に行ってみてまず驚いたのは、客層の95%が女性だったこと。やはり楠本作品は断然女性から支持されている。
会場には音楽マニアの楠本さん所蔵のレコードも何枚か展示されていて、バウハウスやボウイはまあ驚かないにしても、トランス・レコードのYBO²やZ.O.Aもあったのは個人的に満足度高かったです。

さて展示を見終えて図録を買ったのですが、楠本さんの蔵書写真が掲載されていて、それを見てびっくりしました。吉岡実の詩集が三冊もあったのです。「パーフェクショニスト」である楠本さんが意味のない本を並べるわけもなく、これは明らかにこの詩人への偏愛を示しています。
谷川俊太郎のようにミーハーでもなく、日夏耿之介のようにゴスでもなく、吉岡実を選んだことに楠本さんの確かな文学的センスを感じます。改めてこの展示が「線と『言葉』」であったことを思い出し、「楠本まきは半分マンガ家、半分詩人だったのだ」と得心した次第です。
最後に「夢二カフェ 港や」という美術館に隣接する喫茶店で、楠本レシピのロイヤル・ミルクティー「琥珀の蠱惑」を飲んで締めました。同伴したN魔女さんをなんとなく撮影したら、アクリル板上に美術館入り口の彫刻が反射して写り込んで、偶然シュルレアリスム写真のようなものが撮れました。光学マジック!

プロフィール
後藤護
ごとう・まもる|1988年、山形県生まれ。暗黒批評、映画・音楽・漫画ライター。著書に『ゴシック・カルチャー入門』(Pヴァイン、2019年)、『黒人音楽史 奇想の宇宙』(中央公論新社、2022年)。魔誌『機関精神史』編集主幹を務める。Real Sound Bookにて「マンガとゴシック」を連載中。
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