ライフスタイル

“手”が加わった贈り物を。

2024年2月18日

HOW TO BE A MAN


photo: Koh Akazawa
illustration: Masaki Takahashi
text: Tamio Ogasawara
cooperation: Koji Toyoda
2015年12月 824号初出

大人への道中、時に迷うことがあっても、慌てず騒がず諦めず。自分を見失うことなく着実に歩を進めるべく、携えてほしい一冊がある。それは、昭和を代表する時代小説家、池波正太郎が残した『男の作法』。身だしなみ、食、女性、家……。1981年、58歳の池波センセイが自身の来し方より導き出した、微に入り細を穿つ“大人の男のあり方”は今もなお、僕らの心に響く

池波さんのイラスト

男の作法』より
緒形拳が風呂の手桶を贈ってくれるんだよね、毎年、ぼくのところに。あれも考えるんだね(笑)。一年ぐらいたつとタガがはずれたり、腐ってきたり、変になってくるわけだ。それで緒形も風呂桶がいいと思うんでしょう。

“シェア”する心を贈り物に。

 いままで贈った贈り物に、人がどれだけ喜んでくれたかどうかは、当の本人ではないのでわからない。でも、もらったもので、嬉しかったり、ドキリとしたものは覚えている。池波センセイも贈り物は難しいと話すが、ネクタイについては、「締める当人が自分で選ぶべき」としつつも、「その人が一生懸命選んでくれたんだなあと思うとやっぱりうれしい」とも語る。そんなセンセイの印象に深く残っているのが、“緒形拳の風呂の手桶”。この贈り物は考えさせられる。風呂桶かあ。こんな発想を持ち合わせているのは、やっぱりマイクさんの他に思いつかない。

「ボクのいま一番の贈り物は自家製のライムシロップ。ライムを薄く切ってハチミツに漬けておくだけ。ライムもシロップもおいしいよ。ラベルを貼ってレシピも書いたりね。でも、これを思いついたのはスイスの友人から、彼が育てているハチのハチミツをもらったことがきっかけなんだ。とても野性的な味だよ。最近贈ったものは、食に興味がある知人に、梨3種をプレゼント。微妙な味の違いの“体験”も悪くないかなって。逆に、友人が読んで面白かった本をそのままくれたのには少し驚いたけど、“感覚のシェア”って意味ではいいものだよね。出合った瞬間にボクのことを思い出して骨董市で買ってきてくれた道具もそう。用途はわからないけど、たまに引き出しから出して何のために作られたかを考えているよ(笑)」

 マイクさんの体験から学んだ贈り物の作法。それは、自分がいいと思っているものや、自分の手を動かして作ったものを“シェア”する心。贈ることで、その人とコミュニケーションが生まれるもの。あとは、その人の顔をどれだけ思い浮かべられるか。いつかは僕も僕なりの“風呂桶”を贈りたい。

マイクさんの贈ったもの、もらったもの。

自家製シロップとハチミツ
左の瓶4つが自家製ライムシロップ。家に遊びに来た友人に、お土産として贈るそう。背の高い瓶は、ハチミツとラムで作ったお酒で、右2つはハチミツ。スイスの知人にもらったもので、パッケージも手作り。
枝切りバサミ
『ポスタルコ』の店の植木をお願いする仲のいいプラントコーディネーターさんが、これは片手で操作できて使いやすいからとプレゼントしてくれた枝切りバサミ。ストックしていた新品をいただいたんだそう。いい道具の“シェア”の好例。
マイクさんが友人から贈られた本
この3冊はマイクさんの家に滞在していた海外の友人たちが、自分たちが読んで面白かった本を置いていくという粋な贈り物。よかったからそのまま人に渡しちゃうラフな感覚。でも、贈ってくれた本人は、もう1冊自分用に買うんじゃないかっていうのがマイクさんの推測。
マイクさんの帽子
サンフランシスコの友人が編んで贈ってくれた家族全員分のニット帽。それぞれにぴったりな大きさで編まれている。
マイクさんが友人から贈られたという謎の金具
マイクさんが好きだろうからと、ヨーロッパ旅行に行った友人が贈ってくれた謎の金具。いまだに使い方はわからない。
梨の詰め合わせ
食の仕事をしている人には梨の食べ比べのような“体験”をしてもらうために同じ果物の詰め合わせを。これはたまたま六本木の東京ミッドタウンにある『サン・フルーツ』で買ったもの。
〈ポスタルコ〉のトラベルウォレット
パスポートが入るトラベルウォレットは旅行好きの友人への贈り物にぴったり。〈ポスタルコ〉のもの。

プロフィール

マイク・エーブルソン

マイク・エーブルソン

〈ポスタルコ〉デザイナー。1974年、カリフォルニア生まれ。〈ポスタルコ〉では、まるで革のような性質の和紙、「ファーマーズ・フェルト」を使った小物を製作中。贈り物にもぴったり。