ライフスタイル
【#4】 山小屋、そして。
2021年7月5日
text&photo: Hannah Suda
雨が降っている日も休み時間はたっぷりある。
雨だとお客さんも少ないのでなおさら余裕もある。
温泉小屋には雑誌「山と渓谷」がかなり最初の巻から置いてあるので私はこの日も面白がって読んでいた。
記事は真剣な登山の記事が書いてあるのだが、その間に挟んである広告にいちいち目が止まってしまう。
皮の登山靴は重そうだけど広告だけで欲しくなっちゃうこの感じ、
これはコピーの力と、私の懐古心か。
いやー、それにしてもレインスーツなんか特にこの頃から進化してるんだろうな…この雑誌の頃はGORE-TEXもものすごく高かったりして。なんて思いながらペラペラとページをめくる。
※GORE-TEXとは、防水はしっかりしつつも服の無駄な蒸気を逃がしてくれるというアメリカ生まれの素材。その信じられない構造については謎。
おっ…??
一瞬何の広告か分からなかったが、これはこの謎のカウガールではなくコンパスが主役の広告だ。そう、谷間にコンパスを持っていけば注目が集まる。考えたな!て、山と関係性ゼロ。
私もコンパスは一応持ち歩いていたが、いまやGPSがダメになった時用のサブである。基本地図とコンパスセットで使うものだが使わなすぎて多分、本気で迷った時使えない。街で練習しようかな。
そんなことを考えながらも私が山小屋にいる時間は溶けるようにすぎた。
私たちは冬になる前の小屋締めをして、冬にさしかかった秋の早朝、小屋を後にしたのであった。
私は荷物を減らしたい一心からカップラーメンを2個食べ、案の定歩き始めて1時間ほどして陣痛のような腹痛にみまわれた。
腹痛により鈍足で歩く私と、はるか遠くのシオリさん。一緒に歩いていたトミーさんは競歩並みのスピードで距離を引き離し、もはや姿も見えなくなっている。
そんなこんなで尾瀬を歩ききり、一緒に歩いた二人と別れて降り立った下界は温泉街である。尾瀬から降りて長距離バスに乗るために素泊まりで一泊して早くから歩き始めたものの、天気はあいにくの雨。尾瀬も福島県の檜枝岐村に位置しているものの別世界なので、久しぶりに街を歩いた時はちょっと浮足立つようであったが、雨でダンプが通るような道を選んでしまったのでちょっと緊張しながら歩いていた。
そんな時この看板を発見。ダスヨちゃんの後ろにはデルヨくんもいた。
尾瀬はこの山を二つほど超えた遠く。しかし歩いている人がほぼ0で、これは歩いては行けない距離だと遅れながらに気づいた私はこの写真を撮った後に20分ほど歩いてコンビニでリュックを宅急便に出し、はれて身軽になったのだった。
そうして途中で寄ったのは、大内宿。
ここは茅葺の建物が軒並みで残っている場所である。私はここで遅めの朝ごはんを食べた。
ちりめんに綿が入ったふわふわの野菜が鈴なりにかけてあった。
この大内宿、駅からバスが出ていてちょっと離れた所にあるのだが、その駅もこんな感じに茅葺き屋根の素敵な駅だった。
駅前にお店があって、ミノ(隠れ蓑、のミノ)を売っていたので面白いと思い入ってみたら中にもっと色んなものが置いてあり、おばあさんが一人でお客さんを待っていた。
私は妙に古いものが好きで、使わないものでも欲しくなってしまうたちなので店の中で嬉々として色々見た。何に使うか分からないものが結構あったがそれもまた楽しい。
駅から入れる方のお店の入り口。手前の脱穀機だろうか、これも値札が付いていた。
店の中でも悩みに悩んだが、ホウキと鍋敷きをお土産に買って店をでた。
藁でできたミノは2000円くらいだったと思うが、買っちゃえば良かったかなといまだに後悔している。買いにいったらまだ間に合うだろうか。
駅の待合場。古い壁に相合い傘がいっぱい書いてあった。
ここから珍しい列車が出ていると山小屋で教えてもらったので、それに乗るためにしばらくこの駅で待つ。
5分経って列車が来た。お座トロ列車といってお座敷の席が付いたトロッコ列車で、電車好きそうな人たちもちらほら。
最初はお座敷に座ってみたが、手紙を書きたいので景色が目の前に見える席に座って手紙を書く。列車にはポストがあって、そこから手紙が送れた。しばらくすると列車がトンネルに入った。
トンネルではこの列車名物の映画が壁に映されて、忍者が列車と一緒に走っていた。
この他にも景色の解説まで付いていて至れり尽くせりだったものの、手紙を3つ書くのも大変であっという間に駅に着いてしまい、バタバタと列車を降りた。
そしてついたのは会津若松市。
長距離バスに乗るために来たのだが、時間もあったので少し街を歩くことにした。
雨なのでやはり人は少ないものの、色んな店があって おじいさんやおばあさんが店番をしていて通り過ぎる時に目が合う。
こういうお店がぽっと町の所々にある。いいねえ…と思いながら歩く。
馬力本願というラーメン屋さんが美味い!と山小屋のシオリさんにお勧めされたので、バスに乗る前に食べてから行こうと思っていた。
メニューの頼み方をボイスメモに入れて教えてもらっていたので、それを聞きつつ店に向かう。
「…柔らかいチャーシューが好きなら味噌ラーメンを頼むと味玉もつくし、大事なのが辛味噌で、これが小さじ二個分くらいでピシッと。これがなんともスープに溶かしながら食べると…美味い。麺は中太。 ネギがね…ネギが結構ちゃんと載ってて…これも美味い。…」
味噌ラーメン中太麺でしっかり注文した。
“こってりしすぎず、旨みもちゃんと出ていて、美味い。”
シオリさんの話で味を想像しつつ行った分も増し増しに中太の麺と辛味噌スープが美味いラーメンだった。
満腹になったので、ちょっと長めに歩きつつ先に現像を出していた写真屋さんに向かう。
途中の八百屋さん。いいレンガと井戸に、りんごの段ボールがいっぱい重ねてあった。
途中に市役所があった。市役所まで風格があるなあ…と思いながら通り過ぎる。
現像したフィルムは10年くらい机にしまってあったものをむりやり使ったのでやはり赤く焼けてしまっていた。この写真屋さんが親切な人で、尾瀬の写真を現像したので山の話などしてポイントカードまでもらってしまった。いまも手元にあるので、これを使うために福島まで通いたいくらいである。
現像してもらった写真。黄色いけどいい感じ。
そんなことをしているうちに日は暮れ、バスに乗る時間が迫って来たので街の中心部に戻ることになった。
雨も止んで空が紫色になった。会津若松市には初めて行ったが、とてもいい場所だと遅れながらも気づく。
バスに乗る直前にあった赤べこのポスター。透ける布に写真が印刷されて人のいない商店街に静かになびいていた。会津若松は古と新の組み合わせが上手いなーと思う。
さよなら赤べこ、さようなら尾瀬。今度来る時はままどおるを買おう。
そう思いながら私は、最初に泊まった宿の底の見えないジャグジーにビビって入らなかった事をちょっと後悔していたのだった。
山小屋にいた。 完
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