TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】アラーム タイマー 違い
執筆:鈴木ジェロニモ
2025年6月21日
太陽の塔の塔内観覧まで1時間以上ある。万博記念公園は広いのでひとまず公園内を歩くことにする。そういえばずっと太陽の塔の背後から音が聞こえている。冒険が始まるような小さな勇気をふるわせるリズム。その音と太陽の塔との絶妙なミスマッチが却って塔の存在を大きく揺るがないものに見せている。音の詳細が気になって、太陽の塔の背後に進む。
おー。ポケモンだ。ポケモンGOだ。太陽の塔の背後に数段の、ベンチにもなり得る階段ゾーンがあってそこを降りると広場があった。一望、と言って差し支えない広場にあらゆる人間という人間が頭にピカチュウの耳を模したヘアバンドを装着してスマートフォン片手に集まっている。個人でありながら集団であるような、祝い事に登場する大きな龍を黒子として動かすような、楽しさと規律の共存があった。この音はポケモンGOの何らかのマーチだったのか。私はポケモンGOをプレイしたことがないので分からなかったけれど、もしファンの人であれば聞こえただけで走り出してしまうような約束の鼓動だったのかもしれない。
人だかりの奥に園内図を見つける。国立民族学博物館。図書室。その2つが同じ矢印の先にあるらしい。塔内観覧まで残りおよそ50分。ちょうどいいか、と思ってその矢印に従って歩く。数分。森をくりぬいた宮殿のように国立民族学博物館があった。
入ると1階が異常に広い。そこにいるだけで空間に諭されるような、まるで分厚いガラスでできた四角い風船。ここにまだ展示はない。巨大樹の蔓のようにうねり上がった階段を上る。2階に受付があって聞く。すいません展示を見たいんですが。「ありがとうございます。常設展と特別展がございます」。なるほど。本当だったら全部見たいのだけれど歩いて戻る時間も含めるとここにいられるのは30分くらい。どうしようかと思って受付の人に相談の気持ちで聞いてみる。あのー30分くらいで見れるのはありますかね。「30分?」。あっはい。「30分……30分?」。30分、はい。
「……お忙しい?」。まあ、なんか戻らないといけなくて。「あのーですね、こちらそれぞれ1時間ほど見ていただくとお楽しみいただける内容となっていまして……」。私という何も知らない人間が来たせいで全ての文脈をイチから伝え直さないといけないと理解したときのOKOKOK、という感じ。受付の方は全くそんな素振りは見せていないけれど自分だったらこんな奴が来たらこう思うだろうな、という内心が察せすぎて申し訳ない。諦める、それを提案だと自分のために思い換える。
図書室を案内していただく。30年前の雑誌を見つけて読むと特集が30年前すぎて驚く。リアルというのは今のことで過去も未来もフィクションだ。iPhoneのアラームがポケットの中でりりりりりりと振動する。塔内観覧に間に合うように自分で設定したアラーム。それをはいはいはいうるさいうるさいうるさいと思いながら止める。30分前の自分の信じられなさをたしなめようとしたけれど、どこを見ても今の自分しかいなかった。
プロフィール
鈴木ジェロニモ
すずき・じぇろにも|1994年、栃木県生まれ。お笑い芸人。歌人。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024準決勝進出。TBS『ラヴィット!』「第2回耳心地いい-1GP」準優勝。短歌では、第4回・第5回笹井宏之賞最終選考、第65回短歌研究新人賞最終選考、第1回粘菌歌会賞を受賞。『ダ・ヴィンチ』『小説 野性時代』『ユリイカ』『文學界』など様々な媒体に作品やエッセイを掲載。’22年からは短歌のライブイベント「ジェロニモ短歌賞」を主催するほか、昨年末には『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行した。
Official Website
https://linktr.ee/suzukigeno
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