TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】季節は巡る

執筆:川内倫子

2025年6月13日

 5月に入ってゴールデンウィークも過ぎる頃、筍もうすぐかな、とソワソワしてくる。毎年5月中旬から下旬頃に自宅の庭に筍が顔を出すのだ。
ことしは20日くらいから収穫できるようになり、そこから1ヶ月間くらいは筍三昧の日々。魚焼きグリルに皮ごと入れて焼き、塩を少しつけて食べるのが一番シンプルかつ美味しいのだけれど、食べきれないので水煮にして冷蔵庫に保存したものを毎日こつこつと食べる。それでも収穫量に対して消費量が家族3人だと全然追い付かないので、干し筍をつくったり、メンマにしてみたり。ことしは塩漬けを作ってみようかと思案する。
それに加えて同じタイミングで毎年実家からそら豆、スナップエンドウ、サヤエンドウ、インゲン豆に新玉ねぎやジャガイモなどが大量に届くうえ、ご近所さんからも野菜をいただくことが増えるから食べることに忙しい。
そして好物の山椒の実が市場に出回るのもこの時季だ。近くのスーパーや道の駅などで購入し、塩漬けを作るのが毎年のミッションなのだ。
自宅の庭に植えた山椒はなかなか成長してくれなくて実を採れるようになるかはわからない。

 いま住んでいる家はもともと竹林だったのだが、ユンボを使って整地してもらい、何本も大きな杭を打って地盤を固めたうえに建っている。
ネットで見つけた売地だったのだが、初めて訪れた際に竹をかき分けて入っていくと川のせせらぎが聴こえてきたことが忘れられない。その瞬間にここに住むと直感で思った。誰も知り合いがいないし馴染みもない土地だったのだが、あっさり移住を決めたのは、当時妊娠6ヶ月で娘がお腹のなかにいたので、普段の自分とは違ったテンションだったということもある。いま思えば娘がここに決めたのかもしれない。
以来自宅で採れる筍を食べることが楽しみになっていて、その年の初物を食べるたびにこの場所に来た日のことを思い出し、年々自分がこの場所に馴染んできていることを実感する。
いずれ山椒の実も育ってくれることを心待ちにしながら、きょうは買ってきたもので塩漬けを作った。

プロフィール

川内倫子

かわうち・りんこ|1972年、滋賀県生まれ。写真家。2002年に『うたたね』『花火』で第27回木村伊兵衛写真賞受賞。2023年にソニーワールドフォトグラフィーアワードのOutstanding Contribution to Photography(特別功労賞)を受賞するなど、国際的にも高い評価を受け、国内外で数多くの展覧会を行う。主な著作に『Illuminance』(2011年)、『あめつち』(2013年)、『Halo』(2017年)など。2022〜2023年に東京オペラシティ アートギャラリーでと滋賀県立美術館で大規模個展「川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり」を開催。現在、個展「a faraway shining star, twinkling in hand」が世界各国のFotografiskaで巡回中。2025年に写真集『M/E』、篠原雅武との共著『光に住み着く Inhabiting Light』を刊行。