カルチャー
梅雨に負けずに劇場で観たい3作。
6月はこんな映画を観ようかな。
2024年6月1日
text: Keisuke Kagiwada
『WALK UP』
ホン・サンス(監)
呼吸をするかのごとく映画を撮り、そのたび洗練の一途を辿るホン・サンス監督の最新作の舞台は4階建てのビル。映画監督のビョンスやその娘、ビル所有者でインテリアデザイナーのヘオク、ビル内でレストランを営むソニらが、そのつど組み合わせを変え、時空も飛び越えながら、酒を酌み交わす。監督の十八番だったズームも鳴りを顰め、「誰がどの瞬間にフレームから消えるか?」のみで映画を駆動していく。最小限の要素だけでこんなにもワクワクできる作品を作れるホン・サンス、天晴れ。6月28日より全国順次公開。
『左手に気をつけろ』
井口奈己(監)
左利きを媒介するウイルスが蔓延し、こども警察によるかしましい取り締まりが横行する世界で、行方知れずの姉を探す女性の摩訶不思議な短編映画。題名はゴダールの引用であり、実際、『アワーミュージック』の天国篇にオマージュも捧げられているのだが、それ以上に本作、それから併映作品『だれかが歌ってる』は、”世田谷線映画”というありそうでなかったジャンルを開拓したことで記録されるだろう(いや、成瀬がいたか?)。それにしても、画家の金井久美子&小説家の金井美恵子の姉妹がエグゼクティヴ・プロデューサーを務めているのには驚いた。6月8日より全国順次公開。
『違国日記』
瀬田なつき(監)
中学卒業を目前に控えた田汲朝は、交通事故で両親を失う。その葬儀の席で、不憫な朝を引き取ると宣言したのは、叔母(母の妹)にあたる小説家の槙生だ。かくして、ぎこちない共同生活が幕を開けるのだが、2人の関係が擬似的な母娘へと安易に横滑りしていないのが心地いい。あくまで朝と槙生のまま、その2人でしかありえない関係性が模索される。ところで、本作では登場人物たちの関係性が、立ち位置や行動によって示される。向かい合うのか、肩を並べるのか、頭を撫でるのか、握手するのか……そこに人間関係のニュアンスが読み取れるようになっている。では、朝と槙生は最終的にどんな位置関係に収まるのか。それは観てのお楽しみ。6月7日より全国公開。
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