ファッション
エーロ島民たちのセータースタイル。
Ærø MARITIME LIFE
2024年1月17日

STYLE SAMPLE ’24
photo: Benjamin Lund
coordination: Marianne Viktor, Chieko Tomita
text: Hiroko Yabuki
2024年2月 922号初出
海があって、仕事があって、だからこの一枚を着る。
デンマークの小さな島、エーロ島の人々が編み上げる
十人十色のセーターにまつわるストーリー!

かつてバイキングが大暴れし、今でも漁業が主要産業の海洋国家デンマーク。寒い船の上で身を守るために海の男たちが好んで着た服といえば、フィッシャーマンセーターをはじめとするセーターだ。コペンハーゲンから車を飛ばして2時間、さらにフェリーに揺られやっと辿り着く人口6,000人ほどの小さな島・エーロ島を歩くと、それらが人々の生活に根付いているのが肌感で伝わってくる。造船業で栄え、多くが何かしらの形で海に携わるこの地では、セーターはもはや島民服。屋外作業も多い船大工は奥さんの手編みのタートルで身も心も暖をとり、国立航海学校の学生は訓練で支給された肘当て付きの一着が誇り。歴史あるスモークハウスの若き店長は動きやすいローゲージに身を包み黙々と鰊を燻す。島の老若男女の素朴な日常の着こなしを見ていると、身の丈にあったおしゃれについて考えさせられる。生業と先祖から受け継いだ習慣、そして服が実直に結び付いたスタイル。それってシンプルにカッコいいし、僕らには馴染みのないブランドもゴロゴロ出てくるから勉強にもなる。とりあえず襟元はすっぽりが基本みたいだね。

「Ebbes Bådebyggeri og Seilloft」Owner
Sweater: hand-made
Pants: Mascot
Shoes: Skechers
Socks: hand-made
Cap: no brand
造船所と協働しヨットやボートの修理・製作に携わる船大工のエッブは、奥さんの手編みのセーターが自慢。「僕のセーターは全部彼女のものさ。手先が器用で、今日みたいなアイスランド風の幾何学柄が得意。ネックが分厚いから風が強い真冬の作業もなんのそのさ」。デンマークのワークマンこと〈マスコット〉のデニムカーゴもいい感じに着古されてるね。

「Marstal Navigationsskole」Student
Sweater: no brand
Pants: FHB
バイキング船博物館がある古都ロスキレ出身のヨハンは、ノルウェー海軍の練習船に乗り込み横浜への渡航経験もある船乗りの卵。「このセーラーセーターはそのときの支給品。肩章用のフリップと肘当てに惚れ惚れさ」。下には薄手のセーターとウールのTシャツを。天気が変わりやすい海上は重ね着必須。ボトムスは膝の自由がきくウールレギンスが定番だ。

Ex-Fisherman
Sweater: hand-made
Pants: Selected
Boots: Dunlop
Cap: no brand
元漁師で、余暇に釣りを楽しむラース。編み物は夫婦揃っての趣味で、こちらは奥さん作。毛糸は1878年創業の紡績会社「Hjelholts Uldspinderi」の南フュン群島産の羊毛使用で「暖かさが違う」と胸を張る。パンツはデンマークのカジュアルブランドのストレートレッグ。ワーク服専門店『STARK』で買ったラバーブーツにインしたザ・漁師スタイルだ。

「Marstal Navigationsskole」Student
Sweater: Devold
T-Shirt: used(Only)
Pants: used(Kansas)
Shoes: Dr. Martens
Cap: no brand
「頑丈で風に強いし、アームがゆったりめで船での作業も楽なの」。ヨハンと同じ航海学生のリゥモアが絶賛するのは創業1853年、バーズアイニットが有名なノルウェーの〈デボルド〉。パンツは船員御用達と噂のスウェーデンの老舗ワークブランド〈カンザス〉。コペンハーゲンと二拠点生活だが、エーロ島で触発され廃材でボート作りを始めた。

「Kimberley Service」Founder
Sweater: Andersen-Andersen
Pants: Kansas
Shoes: Ecco
Eyewear: Tom Ford
生まれも育ちもエーロ島の元船大工。定年退職後に清掃会社を立ち上げたが、自船の修理のためかつての職場であるエッブの造船所を時おり訪れるモーンス。「袖口のサムホールと低めのタートルネックが洒落てる」と伝統的なフィッシャーマンセーターから着想を得た〈アンデルセン—アンデルセン〉を愛用。はきこんだカーゴデニムはまたしても〈カンザス〉。

〈HCC BÅDEVÆRFT〉Ship Builder
Sweater: Norwool
Coveralls: Carhartt
Eyewear: no brand
アイスランドで買った典型的なノルディックセーターを、勤め先から支給された〈カーハート〉のカバーオールにインしていた船大工のマグナス。スウェーデンやフェロー諸島を転々とし、エーロ島に居着いたそうで、「島の人と仲良くなれるから」とボランティアで消防士をやったり、寒中水泳で体を鍛えたり満喫中。人懐っこいキャラが滲み出るようだね。

Yachtsman
Sweater: used(S.N.S. Herning)
Pants: Carhartt
Shoes: New Balance
Beanie: Obey
Scarf: Buff
両親に連れられエーロ島に来るうちに魅せられ1年前に移住。遠距離ヨットマンのトロルスの鉄板セーターは、バブル柄ボーダーを描いた古着のフィッシャーマン。襟元には華やかなウールスカーフをキュッと。〈カーハート〉のカーペンターパンツの大きなポケットに操縦用の道具を詰め込んでいざ出発! 「このスタイルで地中海くらいまで行けるよ」

「MotorFabriken」Staff
Sweater: used
Shirt: no brand
Pants: Lee
Belt: used
Eyewear: no brand
「このセーターは母親が蚤の市で買ってきた手編み。暖かいし、何より僕のために選んでくれたのが嬉しくて」。カルチャーセンターで船の模型製作を教えつつ、自身の音響設備の会社設立に向け準備中のトビアスは、祖父母が住むエーロ島に両親と共に越してきた移住組。襟元からチラ見えするシャツは父親からの拝借品。って本当に家族仲良しなんだね。

Maritime Architect
Jacket: Fjallraven
Sweater: S.N.S. Herning
Pants: FHB Naver Bukser
Shoes: Blundstone
Beanie: no brand
老舗のデンマークブランド〈SNS ハーニング〉のタートルネックに、鮮やかなオレンジ色のビーニーが目立っていたクリスチャンは、船の再建プロジェクトや学生を招くスクールに携わる“海事建築家”。ボトムはミリタリーやワーク系が多く、この日はドイツのワークパンツを着用。「オンラインショップの『Army Star』は品揃えが良くておすすめだよ」

『Prinsebroen』Store Director
Sweater: Andersen-Andersen
Pants: Helly Hansen
Shoes: Airtox
Cap: Carhartt
エーロ島最古のスモークハウスの系譜を継いだ人気店を率いるミケルの仕事着は〈アンデルセン—アンデルセン〉のクルーネックセーター。ローゲージのあぜ編みで襟元に高さがあり保温性はバッチリ。膝当てを入れられる〈ヘリー ハンセン〉のペインターパンツで、力仕事もなんのその。「うちの鰊の燻製と自家製アクアビットは相性抜群。食べに来て!」

Master Mariner
Sweater: Andersen-Andersen
Pants: Helly Hansen
Boots: LaCrosse Footwear
Cap: S.N.S. Herning
Gloves: Raptor
「セーターはざっくりしたアイスランド風が好み。コレはウールの質が極上で動きやすさも合格さ」。元海軍で、今はフェリーの操縦士として船上に立つ傍ら、趣味でボートを作ったり修理の手伝いもするミケル。作業中は怪我を防ぐためにパンツはニーパッド付き、足元はハンティングブーツでお馴染みの〈ラクロス〉、デンマーク製の手袋がマイルール。

「Marstal Navigationsskole」Student
Sweater: Devold
Pants: Wrangler
Cap: hand-made
「エーロ島ではみなが海という共通言語で世代を超えて繋がれるの」。沿岸航海のカリキュラムが終了し休暇中だが、船のチェックを怠らない生真面目な航海学生のヴィクトリア。これぞノルディックセーターな雪の結晶柄のタートルに、練習船で渡航したプエルトリコで買った〈ラングラー〉。キュートなニットキャップはおばあちゃんの手編みなんだって。
インフォメーション

エーロ島
冬は雪景色が広がるエーロ島だが、実はデンマーク有数のリゾート地でもある。島の東南の港町マースタルの海辺にポツポツと並ぶこのカラフルな小屋はビーチハウス。中は居間のようになっていて、夏の間家族連れなんかがレンタルして、ここを拠点に海水浴を楽しむのだそうな。まるで童話の一幕、いつかこんな田舎に住みたいな〜なんて夢想してみたり。
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