マイク・ミルズとスタイルリファレンス。【前編】
2022.01.19(Wed)
photo & coordination: Aya Muto
text: Keisuke Kagiwada
2022年2月 898号初出
スーツを〝裏切りの要素〟と考えるマイク・ミルズ。
彼自身、そして最新映画の主人公のスタイルには、
型破りな先達から学び取った、独自の真理があった。

MIKE MILLS
Shirt — A. P. C.
Pants — UNIS
T-Shirt — souvenir
Shoes — Converse
Cap — New Era
撮影現場のスタイルとそのリファレンス。
マイク・ミルズの新作映画『カモン カモン』が、現在アメリカで公開中だ。日本での公開は今春らしいが、待ちきれなくていろいろ調べていたら、メイキング写真に写っていたのは、現場でスーツを着ているマイクの姿。なぜスーツ!? 真相を確かめるべくLAのマイクの家を訪ねると、出迎えてくれた彼は、いつもどおりカジュアルな装いだ。こうなると現場でのスーツのワケがいよいよ気になってくるではないか。
「映画撮影時は大概スーツを着るんだ。映画の神、そして俳優やスタッフに敬意を表する意味でね。この写真で着ているスーツは、カスタムテーラードしてもらったもので、’90年代に買った古い〈アー・ペー・セー〉のスーツが基になっている。あるシーズンのジャケットと、また別のシーズンのパンツを組み合わせて、スーツとして再現したものなんだ。オリジナルの洋服もまだ着ているよ! 僕の着ているものの半分は、15年、いや20年ものじゃないかな? それはともかく、スーツは監督という役を演じる心意気にさせてくれるし、みんなに優しく接しようとか、映画を作っているという意識を忘れないようにとか念押ししてくれる道具にもなるんだ。ただ、今回は子供たちにインタビューするシーンがたくさんあったから、そのときはあえて着ないという選択をしたけど。その状況で中年の白人男性がスーツを着ていると威圧的になる気がしたから」

「ただ」とマイクは言葉を継ぐ。「ネクタイやスーツのような歴史的なメンズウェアを取り入れるのは、昔から好きなんだ」と。
「僕みたいにスケート、パンク、美大といった文化的背景を経た人が、まさかスーツを好んで着るとは誰も思わないだろうから、逆に主張できるものがある気がして。昔の僕のグラフィティの写真にも、スーツを着ているものがあるよ。行為に見合わない、裏切りの要素としてのスーツが好きなんだ。スーツを着た白人の男が、まさかスプレー缶を取り出してグラフィティを始めるとは思わないから」
裏切りとしてのスーツスタイル! グラフィックにしても映画にしても、人とは違う視点から物事を見ることを通して作品に昇華してきたマイクらしい発想だ。しかし、こうしたスーツスタイルには影響を受けた先達がいるという。
「例えば、ルネ・マグリットだね。彼はシュルレアリスムの画家で、破壊的な表現をする人物だけれど、意表をついてスーツを着て、ボーラーハットをかぶったりしているから。そのスタイルは、パンクの精神にリンクしている気がする。他の誰もそうは思わないだろうけど(笑)。例えば、The Clashはよくズートスーツを着ていたよね。彼らに父性社会的な主張があったとは思わないけど、ヘテロセクシャルな男性の在り方としてスーツを着こなしながら、遊び心がちゃんとある。そのまま真似しているわけではないけど、彼らの存在が僕のスタイルの形成に貢献してくれたことは確か。僕の頭では彼らが着ているスーツに、自分のスーツ姿は直結しているんだ」


ルネ・マグリットは、1920年代に活躍したシュルレアリスムの画家。ある物体を現実的にありえない場所に置いて描く“デペイズマン”という手法を得意とし、本人はスーツにボーラーハットというスタイルを好んだ。しかし、その破天荒な画風とは異なり、人柄は温和だったそう。

1976年に結成されたバンド。マイクはその3rdアルバム『ロンドン・コーリング』時代の彼らのスーツスタイルに影響を受けているそう。ちなみに、マイクの監督作『20センチュリー・ウーマン』には彼らの「ハマースミス宮殿の白人」が流れるシーンがある。
MIKE MILLS
マイク・ミルズ|1966年、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。クーパー・ユニオンを卒業後、ミュージックビデオやCMの映像監督、グラフィックデザイナーとしての活動を開始。2005年に『サムサッカー』で長編映画監督デビュー。その他の作品に、『マイク・ミルズのうつの話』『人生はビギナーズ』『20センチュリー・ウーマン』など。

『カモン カモン』
ラジオジャーナリストとして全国各地を旅してインタビューすることを生業とするジョニーは、妹に頼まれ甥ジェシーの面倒を見ることに。しかし、安請け合いしたばかりに、ジェシーとの暮らしは苦難の連続だった。そんな2人の姿を通して、大人と子供、そして過去と未来のありうべき関係が探求される。今春公開。
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