ファッション

スタイルのあるクローゼット。

Closet Snap from Berlin

2023年1月18日

STYLE SAMPLE '23


photo: Rie Yamada
text: Yukiko Yamane
2023年2月 910号初出

どんなスタイルであれ、結局のところ、どの服を選び取るかの選択。
シャツ、パンツ、はたまたソックス。まず何から選ぶかにも哲学があって。
その起点にあたるクローゼットにはひととなりが表れる。
独自の視点で着こなしを楽しみ、ファッションを愛するJoseph Waliaの自宅を訪ねた。
いつかはこんなふうに毎日の洋服選びを楽しみたいものだね。

ジョセフ・ワリア

Joseph Walia 
ジョセフ・ワリア|1991年、バンクーバー生まれ。ドイツのテーラリングに興味を持ち、2017年にベルリンへ移住。〈フランク・リーダー〉のテーラー・アシスタントを経て、2022年〈ジョセフ・ワリア・テーラリング・カンパニー〉を設立した。目覚めのコーヒーは、日本で買った琉球やちむんのマグカップで飲むのがマイルール。

 ミニマルなモノトーンアイテムが並ぶクローゼットの持ち主は、テーラーのジョセフ。そのタイムレスな装いやクリエイションには、彼なりの哲学がギュッと詰め込まれている。

「テーラーという職業を最初に意識したのは、大学でドイツやフランスの哲学を学んでいた20歳の頃。ヴィム・ヴェンダースの映画『都市とモードのビデオノート』からデザイナーの山本耀司や写真家アウグスト・ザンダーの存在を知って、ファッションに興味を持つようになったんだ。特にアウグスト・ザンダーの『20世紀の人間たち』には一番影響を受けているよ」

 そんな彼のワードローブはここ数年あまり変わってないという。「基本的にいつも同じものを着てるんだ。それにはちゃんと理由があってね。服は着続けることで破れたり、ほつれたりして、どこが弱いかわかるから、自分で服をつくるときにその部分を補強してるんだ。仕事でもプライベートでも、丈夫なつくりの古いエレガントな服に惹かれる。着古した、着慣れた、所有していた人たちの痕跡を残す服だね」

クローゼット
ジョセフが目指すクローゼットとは? 「一言で言うと“渋い”。10年、いやそれ以上同じ服を並べていきたいよね」。ディーター・ラムス がデザインした〈ヴィツゥ〉の「606 ユニバーサル・シェルビング・システム」は、ベルリンに定住すると決めたときに購入したもの。

 なるほど、自分の服を通して探究しているということか。〈ヨウジ ヤマモト〉をはじめ、ブラックのアイテムが多いのはなぜだろう? 「ブラックが生み出す感情は、僕の心に一番近いからかな。田舎で夜空を見上げるような感覚に似てるし、エレガントでミステリアスな色だよ。グリーン、ブラウン系などいろんな種類のブラックがあるけど、僕はダークブルーブラックが好き。今は新しいアイテムを買うより、もっと自分で服をつくっていきたいな」

オールブラックなジョセフの冬の定番スタイル

ジョセフ・ワリア
見事にオールブラックだけど、立体感のある冬スタイルが完成。「シルエットが際立つように、マフラーの巻き方にもかなりこだわってるんだ。シルエットづくりについては、大好きな山本耀司の自叙伝『My Dear Bomb』から影響を受けて。かれこれ50回以上は読んでるし、僕のバイブルだよ」

1. Joseph Walia Tailoring Companyのタックパンツ

Joseph Walia Tailoring Companyのタックパンツ
「シャツよりも俄然パンツから選ぶ」というジョセフのお気に入りの一本は、昨年の夏に自分でつくったリネン100%の2タックパンツ(左)。東京の古着屋で購入したという1990年代の〈ヨウジ ヤマモト〉の3タックパンツ(右)は、ウールに見えて実はコットンブレンド。

2. Joseph Walia Tailoring Companyのシャツ

Joseph Walia Tailoring Companyのシャツ
この日のインナーは、右下の自作シャツをチョイス。左上は、初めて買った〈ヨウジ ヤマモト〉のシルクシャツ。「2012年にバンクーバーのコレクター友達から購入したんだ。ここから〈ヨウジ ヤマモト〉を集めるようになった、忘れられない一枚だよ」。右上と左下はどちらも〈Y’s〉のシャツ。 「白シャツは1980年代のウィメンズアイテムなんだけど、ぜひ襟に注目してほしい。ちょっとアウグスト・ザンダーっぽいと思わない?」

Mismoのベルト

Mismoのベルト
2012年、当時働いていたバンクーバーのショップ『Neighbour』で購入したデニッシュブランド〈ミスモ〉のレザーベルト。「シンプルでグッドクオリティ。この10年間、ベルトはこれ1本って決めてるんだ」

3. James Cowardのジャケット

James Cowardのジャケット
愛用しているジャケットは、2021年までジョセフ自身も所属していたバンクーバーのブランド〈ジェームス カワード〉。「2018年からずっと着てる一着。上質なベルギーリネンを使用してるから、経年変化も楽しめるんだ」

4. Yohji Yamamotoのコート

Yohji Yamamotoのコート
2014年からメインアウターとして愛用しているコート。「これはまだ〈Y’s〉がスタートする前のレアアイテムだね。本当はバンクーバーの友達が所有していた大事なコレクションアイテムだったけど、僕がガチのコレクターだからと売ってくれてさ。これからもずっと着続けたい一着だよ」

Y’sのコート

Y’sのコート
「厚手のウール素材であったかいから、ベルリンの冬にぴったり。タグがレアなんだ。これもバンクーバーのコレクター友達から購入したんだけど、2014年は彼に全財産を使っちゃったんだよね」

5. James Cowardのモンキーシューズ

James Cowardのモンキーシューズ
ヘビロテしてる〈ジェームス カワード〉のモンキーシューズ(中)を中心に、『Nepenthes New York』で買った〈オーロラ シューズ〉(右上)、〈アディダス〉と〈ヨウジ ヤマモト〉が初めてコラボした希少なスニーカー(右下)、ビジネスパートナーから今年の誕生日にもらった〈Chaleur〉のスリッパ(左下)、友達からもらった〈ヴァイバーグ〉のイタリアンレザースニーカー(左上)など、基本ブラックしか履かない。

MOEBEL HORZONの棚

MOEBEL HORZONの棚
清々しいほど靴箱も真っ黒! クローゼット同様に、規則性を持ってキレイに並べている。ちなみに靴箱はベルリンのモジュール家具メーカー「MOEBEL HORZON」でオーダーメイドしたもの。ちょこんと飾っている赤べこがいい味出してるね。

6. AHLEMのメガネ

AHLEMのメガネ
メガネは〈アーレム〉のヴィンテージモデル一択。1つ目は2017年、2つ目は2019年にバンクーバーの『Bruce Eyewear』で購入。「映画『レオン』でジャン・レノがかけてたメガネに似てるよね? エレガントでシンプルなフレームが気に入ってるんだ」

オーダーメイドのリング

オーダーメイドのリング
毎日身に着けているアクセサリーは、コロンビア出身のお母さんがくれた2個のオーダーメイドリング。「大きいほうのリングに付いているWは僕のファミリーイニシャル。どちらもメイド・イン・コロンビアだよ」。

7. Yohji Yamamotoのマフラー
8. Super Basqueのベレー帽

Yohji Yamamotoのマフラー
Super Basqueのベレー帽
2015年に東京の古着屋で見つけたマフラー。「実はこれウィメンズなんだけど、両端にパースが付いてるんだ。こんなの見たことなかったから、即ゲットしたよ」。トレードマークのベレー帽は、2017年にバンクーバーで出合って以来の相棒だ。