FASHION

いつも同じような格好をしている人。

アーロン・ローズの7日間。

2022.01.25(Tue)

photo: Asato Iida
text: Shimpei Nakagawa
2022年2月 898号初出

「服は毎朝のコーヒーと同じくらい、どうってことないもの」と本人は言う。
でも、変わらないでいる、という姿勢にはきっと背景がある。会って、話を聞いてみた。

AARON'S RULE FOR THE STYLE
ハットをかぶる。
開襟シャツを着る。
カーディガンを羽織る。
古着のスラックス。
ローテク、ローカットのスニーカー。


DAY 1

LAの衣料品店『Greenspan’s』のオリジナルハット、〈COS〉のカーディガン、シャツは古着の〈ペンドルトン〉。〈コンバース〉のカラーをカスタムできるオールスターは、履きつぶしては気分で色を変えている。「パンツは忘れた(笑)」


DAY 2

キッチンで今日5杯目のコーヒーを淹れてひと息。Day1と同じカーディガンを2つ持っていてローテーションしている。“Rose”柄のシャツはデザイナーの渡辺真史さんからもらった〈ベドウィン&ザ ハートブレイカーズ〉。古着を仕立て直したパンツに、ギャングスタ御用達の〈Zig-Zag〉の靴。


DAY 3

アートに囲まれたリビングでゆったり寛ぐ。ピンクとブルーのカラーリングがお気に入りだという、メキシコのオアハカで買った民芸品のシャツに、Day1とDay2と同じ型で色違いの〈COS〉のカーディガンを。パンツはリサイクルショップ『Goodwill』にて6ドルで買ったものを仕立てに。


DAY 4

アーロンが「今LAで一番クールだ」という友人のギャラリー『One Trick Pony』で行われていた、Chapman Brothersの兄、Dinos Chapmanの個展を観に来た。ハットはDay1、Day2と色違いの〈Greenspan’s〉。開襟シャツ、パンツはともにヴィンテージ。スニーカーは黒のオールスター。


DAY 5

寝室で、友人のバリー・マッギーに誘われて所属することになった、イタリアンモペットクルー「96 TEARS SC」のカスタムジャケットを見せてくれた。今日は〈Baron Hats〉で作ったカスタムハットに、〈A.P.C.〉のシャツ、友人のハーモニー・コリンがコラボした〈VANS〉のオーセンティック。


DAY 6

アーロン自身も在籍する、映画監督ロマン・コッポラの映画製作会社「The Directors Bureau」前にて。入り口の扉のペインティングを制作中で、ずっと昔に買った〈ユニクロ〉のカーディガンに、スリフトショップで手に入れたシャツとスラックスなど、汚れも構わず着られるもので。


DAY 7

この日もDay3とDay4に登場したカーディガンとローカットのオールスターを。サングラスはすぐなくすから、オンラインで29ドルで売っているものをまとめ買いして、家のそこら中に置いてるとか。20年以上乗り続けている1959年製のベンツは最近水色に塗って惚れ直したという。


「スタイルは着るものに影響を与えるけれど、
服が君自身のスタイルを作ることはないよ」

愛煙する赤マルを燻らせるアーロンがかけるメガネも、サングラス同様に29ドルのものをまとめ買い。

「大体いつも同じような格好をしている人」と考えて、真っ先に浮かんできたのがアーロン・ローズだった。肩書は映画監督、アーティスト、キューレーター、編集者など多々あれど、いつも年季の入ったハットを頭にちょこんとのせ、カーディガン、シャツ、スラックス。’90年代のNYで伝説となった『アレッジド・ギャラリー』を構えていた当時の写真にも、同じいでたちで写る彼を見つけた。少なくとも20年以上変わらないその格好に、いかにたどり着いたのか純粋に知りたくて、彼が住むLAに向かった。

ハリウッドの丘を登っていくと鮮やかな水色が目を引く’59年製のベンツが見えてきて、自宅からアーロンが出迎えてくれた。カルチャーがみっちり詰まったアトリエで、まずはファッションとの出合いについて聞いてみた。

「モッズカルチャーに14歳から傾倒したんだ。おわかりのように今着てるものはモッズにおいて定番のもの。必要な持ち物はすべてポケットに収まるし、整った見た目だから割と場所を選ばないという理由でこの格好に行きついてから、着るものはほぼ変わってないな」

そう話すアーロンのコレクションを見せてもらうと、いわゆる高価なブランドものがない。替えが利く気軽なものしか持たないそうで、カーディガンは〈COS〉の色違いを買って着回せば、スラックスはスリフトで安く見つけて仕立てに出して事は足りるし、ハットも毎日かぶってカビが生えたら買い換える。そんな調子だという。「モッズを通して仕立てのいいカットを知ったから、安くても自分に合うものはわかるし、私にとって服を買うことは毎朝コーヒーを買うことと同じくらいなんでもないこと。見てのとおりアートは集めるけど、服は集めてない。スタイルは君が着るものに影響を与えることはあるけれど、服が君自身のスタイルを作ることはないよ」

まずスタイル。次に服。そんな、シンプルだけど大切なことを教えてくれたアーロンのようになるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

アーロンと共に過ごす間、アトリエにはペイントされたスーツケースなどが並んでいて鋭意制作の真っただ中。作品は原宿の『Scooters For Peace』にて現在開催中の個展『BAGGAGE CLAIM』(1月29日まで)で見られる。

Aaron Roseの服装のルールと、日々のこと。

1. カーディガンは〈COS〉を色違いで。

2. ハットはカビが生えるまで。

ものを毎日かぶるのが主義。1928年にLAで創業した老舗ワークウェア量販店『Greenspan’s』のオリジナル(右)と、50作品以上の映画などに提供してきた『Baron Hats』のカスタムハット(左)が現役。

3. 〈VANS〉か〈コンバース〉かギャングスタ。

ローテク&ローカットのスニーカーを、履きつぶして買い足す。ブランドも決まって〈VANS〉か〈コンバース〉。そして〈Zig-Zag〉も。LAでは’80年代からギャングスタが愛用してきたブランドで、ストリートでは“Winos”と呼ばれる。「LAの街中で、見知らぬ人と、このカルチャーを知るものだけの言葉のないコミュニケーションが取れるのがいい」

4. いろいろな開襟シャツ。

5. パンツは仕立てに出すけれど。

モッズを通して学び「いいカットと自分に合うサイズを熟知している」から、パンツはスリフトショップで掘れば事足りる。間違いないものを安く見つけたら、町の仕立て屋に出す。裾はクッションさせず、基本的に「時代遅れといわれているからこそあえて」ダブルにし、センタープレス。そうやって整えたスラックスを、作品の制作中に筆拭きとして気兼ねなく使う。

6. いつもそばにある好きなアートや本。

1. アトリエには本人のアートが並ぶ。2. ウィリアム・クレインの『Rome: The City and Its People』をはじめアンディ・ウォーホルやジェイコブ・ホルトなど、ここの3冊は数あるコレクションの中でもお気に入りの写真集。3. 『Alleged Gallery』を代表するアーティストたちをドキュメントした映画『Beautiful Losers』(2008)に登場するアーティストの中でも特にお気に入りのマーガレット・キルガレンの作品。裏面にはボツとなったドローイングも。4. 取材時は「The Directors Bureau」の正面玄関のミューラル制作の真っただ中。5. 玄関に入ってすぐにはエド・テンプルトンやテリー・リチャードソンなど友人の作品をはじめ所狭しとアートが並ぶ。6. それぞれR・O・S・Eと描かれた4作品は、元修道女でアーティストのコリータ・ケントのもの。アーロンは2015年に彼女の短編ドキュメンタリーを製作した。7. 作品集『Beautiful Losers』にも寄稿している『One Trick Pony』オーナーのArty Nelsonとは旧知の仲。

プロフィール

アーロン・ローズ

アーティスト。1969年、オレゴン州ポートランド生まれ。NYで『Alleged Gallery』を運営し(1992〜2002年)、ハーモニー・コリン、バリー・マッギーなど数多くの芸術家を世に送り出し、彼らをドキュメントした映画『Beautiful Losers』を監督。この先数年かけて長編映画を撮る予定。

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