ファッション

スタイル・ウォッチャーの眼を借りて。

アテネの編集者が思わずカメラを向けるスタイルとは。

2023年2月1日

photo: Chris Kontos
edit: Hiroko Yabuki
2023年2月 910号初出

 アテネにトリップ。インディペンデントマガジン『Kennedy Magazine』を編集するクリスのスタイルを見る眼はきっとシビアなはずだ。彼のインスタグラムで日々UPされる人々のスタイルはそれこそ、電車に乗り込むクタクタのスーツの男性に、カートで荷物を運んでいるおばさん、フットボールシャツを’90年代のフランス映画みたいに着こなす女の子。人種も国籍も、年齢もバラバラ。そのフィルターを通して綴られるストーリーに見入ってしまう。「ギリシャ人は服で自己表現することに慎重。だからアテネはいわゆるスタイリッシュな街ではないかもしれないけれど、一方で国内外を行き来する若い世代は自由におしゃれを楽しんでいるし、人生の先輩たちの佇まいにもグッとくる。僕にとって彼らこそが今のアテネの顔なんだ」。さっそくその眼を借りてみよう。

街角に溶け込むような
“顔のない男”に、一瞬で魅了された。

「アカディミアス通りのキオスクで、吊られた新聞を読んでいた男性。そのオールドスクールな佇まいに惹かれ、
とっさに写真を撮って顔を見ずに立ち去った。僕のインスタで一番反響があった写真なんだ」
この街にパタゴニアは意外としっくりくる。
「デンマークから遊びに来た友人のセオフィロスとレコード屋をのぞいたり、ストリートフードをつまみ食いしたり。
アメリカ人の血を引く彼だけあり、〈パタゴニア〉のシンプルなフリースがよく似合っていた」
父との思い出の店の軒先で見かけた、ナイスなコンビ。
「父親に連れられ子供の頃から通っているチーズパイの店の前で、白髪の男性が佇んでいた。デニムの上下にブルゾンを羽織ったダッドな装いはもちろん、愛犬とのシンクロ具合が印象的でさ。お互い信頼しているんだろうなって」
フットボールシャツ、アテネっ子はこう着る。
「彼女が着ているのは、地元のフットボールチームが〈Kappa〉とミュンヘンのデザイン事務所Bureau Borscheと作ったシャツ。
『Kennedy Magazine』の若い読者も真似して、デニムとローファーに合わせて着ているらしい。
撮影場所は僕が生まれ育った通りのペストリーショップの横さ」
ヨウジの黒をこよなく愛する仕立て屋。
「ベルリンに住むジョセフは古い友人で、腕利きのテーラー。彼は僕が知る限り、最も明確なスタイルを確立している人物で、いつも決まって全身〈ヨウジ・ヤマモト〉の黒。服装がパーソナリティを物語る好例だ。」
雨の日はキャップが傘代わりさ。
「愛する家族、妻のアシーナと3歳になる息子のアトラス。彼女は時に僕の服を取り入れながら、実にエフォートレスにおしゃれを楽しんでいる。赤いキャップも僕の古い〈Baldwin Denim〉。息子の〈バブアー〉のジャケットもキマってるでしょ?」
日本人の友人は、おしゃれのお手本だ。
「パリでカフェ『Dreamin Man』を営むユイは、ベストのレイヤードの仕方も、コックシューズも、日本的でブレがない。
中央市場で一緒にスブラキを食べたんだ」
バックスタイルで語る男になりたいね。
「絶妙に味のあるフロッグハットに空手チームのフーデッドトップ、ヴィンテージのオールスター。偶然見かけた中年男性の着こなしは、彼らしさが滲み出るようでアメージングの一言」
芯の強さが、佇まいから伝わってくる。
「アートギャラリー『Hot Wheels Athens』で働く友人のジュリアは、長年NYで暮らした後にこの街に移った。
いわく、『アテネの人は温かくて感情表現が豊か』。ベリーショートの髪型も、彼女の強さをよく表している」
時にさりげなさは、完璧な計算に勝る。
オーバーサイズのシャツにチャーミングなストローハットをかぶった町の女性。なんてことない着こなしのほうが、頑張っておしゃれしている人たちよりもずっと洗練されているって、つくづく思うよ。
飛び散った塗料も髪型もクレイジー。
「このワークウェアにピンクの髪。アーティストKostas Lambridisのワークショップで知り合って、思わずシャッターを切ったね。僕の撮影のモデルもお願いしたんだけど、残念ながら叶わずこの国を去ってしまった」
ロングコート、ウォッシュド、ローファーは正義
スタディウ通りのお気に入りのカフェへ向かう妻と息子。〈カッスル・エディションズ × ザラ〉のコートに〈リーバイス〉、〈セバゴ〉のローファー。シティボーイなら誰もが好きな王道スタイルだよね。キャップはやっぱり僕の。

プロフィール

Chris Kontos クリス・コントス

1979年、アテネ生まれ。大学で写真を学び、ファッションフォトグラファーとして活躍。2018年に自身が主宰する独立系雑誌『Kennedy Magazine』をローンチ。毎号1つの都市にフォーカスし、これまでに東京特集を含め計13号を刊行。インスタ(@kennedymagazine)には世界中で撮影したスナップが。