ファッション

ロンドンレディのハンサムな着こなし。

London Lady

2022年9月29日

photo: Jack Orton
coordination: Keita Hiraoka
edit: Minori Kitamura
2022年10月 906号初出

 英国紳士のトラッドな装いは、ぼくらにとってずっと変わらずお手本だが、ロンドンレディの着こなしもとにかくかっこいい! ということで、今気になるデザイナー6人をスナップ。偶然来日していた〈スタジオ ニコルソン〉のニック・ウェイクマンや、ポパイでもお馴染みの〈エスイーエイチケリー〉をポール・ヴィンセントと手掛けるサラ・ケリーに、最近メンズラインも立ち上げたフレッシュな〈カウリー〉のハナ・カウリーなど、英国のテーラリングや、伝統的なものづくりにリスペクトをこめて服作りをする彼女たちの、メンズ服への愛情は僕らと同じだった。独自のルールを貫くハンサムな姿はとても魅力的で、参考にしたいところがいっぱいだ。

1. Sara Kelly 〈S.E.H KELLY〉デザイナー

サラ・ケリー
Sara Kelly〈S.E.H KELLY〉デザイナー
サラ・ケリー|ザヴィルロウで10年間テーラリングを学んだのち、パートナーのポールと〈エスイーエイチケリー〉を立ち上げる。「秋冬の定番はカーディガンで、カラーパレットは黒、紺、グレー」

 自分が手掛ける〈エスイーエイチケリー〉は、パートナーのポールが着ていそうかどうかが基準だから、彼が好きな英国らしい質実剛健なものが中心ですし、私もそんなスタイルが昔から好きです。伝統的なテーラリングの世界で服の基礎を学んだ影響もあってか、トレンドを追うよりも、生活に最適な実用的なディテールを持つ普遍的な服であることが重要です。例えば今日着ているコートは大きなポケットや、首元のスロートタブなど、デザインに意味のないものはない。それこそがメンズウェアの魅力であり、自然と毎年同じ格好になっています。冬が深まってきたらインナーは厚手のニットに。メンズのコートなら中に色々着込めますしね。

2. Hannah Cawley 〈Cawley〉デザイナー

ハナ・カウリー
Hannah Cawley 〈Cawley〉デザイナー
ハナ・カウリー|2017年に英国の質の高い職人技を日常着に落とし込む〈カウリー〉を創立。最近メンズラインも立ち上げ、機能的でオーセンティックな、長く使えるよう配慮されたデザイン揃い。

 洋服に興味を持つようになったときからメンズ、ウィメンズ関係なく着ていて、ブランドでいうと、自分の〈カウリー〉はもちろん、〈マーティン ローズ〉〈ウェールズ ボナー〉や、〈ゼニア・テルンツ〉を愛用しています。メンズアイテムを着るならシャツが私の定番。オーバーサイズで、長めの袖・着丈はスタイルの軸になっています。メンズのジャケットも同様に、ゆとりのあるサイジングだからインナーの幅が広がって、厚いニットもレイヤードできますし、バッグを持つのがあまり好きではないので、実用的な仕様のポケットを備えていることも重要です。今着ている〈カウリー〉の「Andie Blazer」もビッグサイズでデザインし、ポケットも深めに作りました。

3. Erica Toogood 〈Toogood〉デザイナー

エリカ・トゥーグッド
Erica Toogood 〈Toogood〉デザイナー
エリカ・トゥーグッド|ザヴィルロウで経験を積んだのち、インテリアデザイナーの姉・Fayeと〈トゥーグッド〉を立ち上げる。「カメラマンコート」や「ガーデニングパンツ」など作業着がコンセプト。Vest Toogood
Tunic Toogood
Pants Toogood
Shoes Vintage

 毎日〈トゥーグッド〉しか着ていないです。特にお気に入りはチュニック。ドレス、シャツ、エプロンの中間のような立ち位置で、古代ローマ時代から性別に関係なく、部族や宗教ごとにユニフォーム的に着られていたという歴史も魅力的に思います。チュニックは、さまざまな素材、シェイプ、ボリュームの服をレイヤリングするときに、つなぐ役目を果たしてくれるんです。色味に関して言えば、親からの教えでスーツのような同色合わせが今でもマイルールとして根付いているので、ワントーンコーデで浅い色かブラックのみでのスタイルが多いです。そうやって色を限定し、コーディネートはジグソーパズルのように頭の中で組み立てています。それぞれのピースが綺麗に組み合わさり、一つの装いとして、一緒に機能しないといけないと思っているんです。

4. Isabella Doyle〈WRIGHT & DOYLE〉デザイナー

イザベラ・ドイル
Isabella Doyle〈WRIGHT & DOYLE〉デザイナー
イザベラ・ドイル|〈JW アンダーソン〉、〈スタジオ ニコルソン〉でパタンナーとして働いたのちにパートナーで庭師のマシューと共に〈ライト&ドイル〉を立ち上げる。自給自足の生活をし、洋服のほとんどが自作。
Shirt WRIGHT & DOYLE
Pants WRIGHT & DOYLE
Shoes Birkenstock
Glasses Vintage

 父はサヴィルロウでオーダーをしていたような人で、幼少期からハンドメイドのカッティングや美しい生地に触れる機会が身近にあり、私は〈ヨウジ ヤマモト〉のメンズをよく着ていました。自分でユニセックス展開のブランドを作ってからは〈ライト&ドイル〉(ガッチリとした体格の男性までをターゲットにした6サイズ展開)が中心です。シャツは特に好きなアイテムで、オーバーサイズを選びます。「メンズだから」ととりわけ意識することはせず、ただ自分に似合うボリュームを選んで、長い袖を腕まくりをするなど、表情でパーソナリティを出すことが重要。ただ、着たときの服のシェイプやドレープの出方はチェックする項目の一つですね。

5. Xenia Telunts 〈XENIA TELUNTS〉

ゼニア・テルンツ
Xenia Telunts 〈XENIA TELUNTS〉デザイナーゼニア・テルンツ|モスクワ出身。ロンドンカレッジ卒業後にユニセックスブランド〈ゼニア・テルンツ〉を始動。フィッシャーマンニットをベースにしたニットなどイギリス産の素材に拘ったアイテムを展開する。
Jacket XENIA TELUNTS
Shirt XENIA TELUNTS
Pants XENIA TELUNTS
Shoes Salomon
Bag XENIA TELUNTS

 子供や犬もいるからポケットなどの実用的な仕様が服には必須です。夫がたくさん持っているヴィンテージのワークウェアを借りますし、その機能的なディテールを参考にしている自分のブランドのものは、着心地や風合いを確認するためにも積極的に着ています。秋の定番はオーバーサイズのメンズのジャケットで、今日着ている「Kimono Jacket」もかなり太い袖。ゆったりしたシルエットだから、インナーになんでもはさめるしヒモを前で結ぶタイプなのでカーディガン的にも着られるのが便利でお気に入りです。選ぶ色はアースカラー、ブラック、ネイビー、ブラウン、グレーで、今日のように小物で差し色を取り入れています。

6. Nick Wakeman 〈Studio Nicholson〉デザイナー

ニック・ウェイクマン
Nick Wakeman 〈Studio Nicholson〉デザイナー
ニック・ウェイクマン|2010年にブランド〈スタジオ ニコルソン〉を創立。実用的でミニマルなデザインを得意とする。日本が好きで度々来日している。
hirt Studio Nicholson
Pants Jil Sander
Shoes Jil Sander × Birkenstock
Bracelet Le Gramme
Glasses CLAYTON FRANKLIN

 10代の頃から変わらず、ワードローブの約9割がメンズ服で、今ではもっぱら〈スタジオ ニコルソン〉のパンツ、〈コム デ ギャルソン〉のシャツ、〈ジルサンダー〉のシャツとパンツばかり。それに大半がネイビーで残りは黒。今年の秋もいつもどおりネイビーのコートとニットを買うと思いますね。『刑事コロンボ』で日々同じようなスーツを着ているピーター・フォークに影響を受けているのかもしれません。日曜日は朝から観続けるくらい好きですから。できるだけイージーでシンプルに、快適に身にまといたいから、デザイン性の高いレディスものよりも私には合っているんです。でも一つ、色の素敵なリップやイヤリングをつけたり、ボタンを開けて表情を出したりと、素敵に装うための少しの工夫は欠かしません。