ファッション
“センスがいい人”の戦略。フラン・レボウィッツ
文・デーヴィッド・マークス
2022年1月31日
STYLE SAMPLE ’22
text: W. David Marx
translation: Rei Murakami (Alt Japan)
illustration: Dick Carroll
2022年2月 898号初出
現在発売中の本誌2月号“STYLE SAMPLE 2022”では、W.デーヴィッド・マークスさんが『STRATEGIES FOR STYLE“センスがいい人”の戦略。』と題したエッセイを寄稿してくれた。ウェブでは特別に3名のスタイルアイコンと彼らの“戦略”をバイリンガル版で公開!
一体感
調理師や事務員といった他の職業と比べ、著述業の服装は極めて自由だ。パジャマ姿で書いても、真っ白な三つ揃えスーツで書いても、構わない。世のライターには、スタイルアイコンになった者もいれば、普通のおしゃれを拒否した者もいる。ニューヨークのライター、フラン・レボウィッツは、執筆するエッセイやウィットに富む皮肉と並び、その服装でも有名になった。特に伝説的なのは、ピンストライプのジャケットスーツ、パリッとしたドレスシャツにフレンチカフス、かっちりしたカシミヤのポロコート、ロールアップした〈リーバイス〉のジーンズ501、大きなべっ甲メガネと茶色いブーツなど常に男性向けの服を着ていたことだ。
レボウィッツは1970年代、雑誌『Mademoiselle』でニューヨーク生活について書いたユーモア溢れるエッセイや記事で有名になった。その後10年ほどは筆が進まなくなり、その間、作品よりもニューヨークでのライフスタイルを通じてますます有名になった。レボウィッツをとりあげてネットフリックスが最近制作したシリーズ『都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-』(原題:Pretend It’s a City)でも、個性的な性格を示し、鋭いユーモアでほぼ何にでも文句をつけている。
レボウィッツのスタイルはキャリアと共に熟成していくが、常に型破りの方向に向かっていった。1970年代には、柔らかいシェトランドセーターの下に男性のフォーマルシャツを合わせた。現在のスタイルは、英国テーラーだ。『アンダーソン&シェパード』に女性客への門戸を開かせ、その後はここを贔屓にしている。
文化の歴史の中で彼女の存在感がこれほど大きいのは、たまに男装をしたからではなく、常に同じ、男性服を着ていたからだ。「ユニフォーム」という言葉はレボウィッツにとって、文字どおり同じ服しか着ない「制服」ではなく、あらゆる可能性を大幅にそぎ落として、いつもうまくいく彼女の特別な数式に落とし込むことを意味する。レボウィッツが仕立てた服は身長162㎝の彼女にぴったりだったし、彼女自身がスタイルそのものだった。今やレボウィッツと男性服を切り離すことはできない。また、男性用の仕立て服を毎日着る女性といえば、それはレボウィッツだ。
同じ服を着ることで有名なのは、レボウィッツだけではない。私たちの記憶にあるスティーブ・ジョブズの姿はいつも、〈イッセイ ミヤケ〉の黒いタートルネックとダッドジーンズ、〈ニューバランス〉のスニーカーだ。しかし彼の場合、「制服」とはスタイルというよりは、着るものを考えなくて済むことだった。一方レボウィッツの制服は「スタイルに賛成するユニフォーム」だ。彼女は服が大好きだが、自分に最もよく似合うクラシックなスタイルに必ず戻ってくる。
私を含む多くの人々が、制服は息苦しいと考えるだろう。感じることは毎日異なるし、TPOに合わせる柔軟性は必要だ。しかし、スタイリッシュであるための道筋ははっきりしている。あなたに似合う独自の姿を探し出して、そこから変わらないこと──本気でそれだけにすることだ。
プロフィール
フラン・レボウィッツ
ライター。1950年、アメリカ・ニュージャージー州生まれ。’69年よりアンディ・ウォーホルが創刊した雑誌『Interview』で執筆業を開始。歯に衣着せぬ批評で知られる。著書に『嫌いなものは嫌い』『どうでも良くないどうでもいいこと』 (ともに晶文社)など。
筆者プロフィール
デーヴィッド・マークス
文筆家。1978年、アメリカ・オクラホマ州生まれ、フロリダ州育ち。2001年ハーバード大学東洋学部卒、2006年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了。日本のファッション、アート、音楽への造詣が深く、2015年に日本の洋服文化史『AMETORA 日本がアメリカンスタイルを救った物語』がアメリカで出版され、2017年に日本語版がDU BOOKSより刊行。ステータスと文化の関係性についての総合文化論をアメリカのVIKING BOOKSから8月刊行予定。
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