カルチャー

【#3】『シンプソンズ』とTシャツ。

2021年5月28日

「シンプゾンズ」© 1989 Twentieth Century Fox Film Corporation
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 先週、UTとシンプソンズがコラボしたTシャツを紹介しましたが、今日はそんな『シンプソンズ』とTシャツの関係について話をしたいと思います。

『シンプソンズ』のシーズン1が放映開始した1989年、とにかく流行ったのが、キャラクターの描かれたTシャツ。僕が通っていた学校でも、クラスの全員が着ていました。しかも、みんな違う絵柄。たぶん番組自体にはそんなに興味がない人まで着ていたんじゃないですかね。同じ年の夏、ワシントンD.C.に行ったら、路上でブートレグのTシャツも売っていて驚いたことを覚えています。

 その後、ストリートウェアが勃興すると、そこでもやっぱり『シンプソンズ』のTシャツがよく作られるようになります。〈stussy〉などストリートウェアの先人たちにとって、『シンプソンズ』ほどちょうどいいポップカルチャーはなかったんでしょう。〈KITH〉や〈Adidas〉も作っていましたね。その意味では、『シンプソンズ』は、ファッションとして取り入れてもオシャレに見える、初めてのアニメだったと言えるかもしれません。その後、『ビーバス・アンド・バットヘッド』なんかも出てくるわけですが。

 ESPOという当時大活躍していたグラフィックデザイナーも、よく『シンプソンズ』のTシャツを作っていました。彼の場合は、『シンプソンズ』のブートレグTシャツのタッチをパロディしたTシャツでしたが(笑)。僕は2000年代にNYの『TOKION』というお店で働いていたのですが、そこでもESPOとコレボレーションして『シンプソンズ』のTシャツを作りました。よく覚えているのは、9.11のときのもの。ブートレグ版の『シンプソンズ』タッチのキャラクターが、オサマ・ビンラディンをこらしめているという絵柄です。当時、アラブ系の人に対する差別がひどかったんですが、「その憎しみはビンラディンだけに向けましょう」というメッセージが込められています。

 ちなみに、僕はパイロット版の時代から『シンプソンズ』に夢中だったので、学校では一番好きだったと断言できますが、Tシャツは買ってもらえませんでした。なぜなら、両親がファッションに対してはかなり保守的で、「ポロシャツ以外は駄目」というような人たちだったから(笑)。その後も一度も買わないまま今に至ります。きっとこれからももう着ることはないでしょうね。こんなに好きなのに。

プロフィール

W. デーヴィッド・ マークス

1978年、アメリカ・オクラホマ州生まれ。文筆家。著書に『AMETORA 日本がアメリカンスタイルを救った物語 日本人はどのようにメンズファッション文化を創造したのか?』がある。ステータスと文化の関係性についての新しい本を執筆中。